第14話
「リスナーさん、リスナーさん!」
「なんだ……?」
シユが背中から走るリスナーを呼びかける。
「もうオラウータン天使さんの姿が見えません! うまく逃げきれたみたいです。なので、降ろしてください」
「……わかった」
リスナーはそう言うと、走るのをやめて、シユを背中から降ろす。
「あ、ありがとうございました……重くなかったですか?」
シユは自分より小さいリスナーに背負われていたのが、恥ずかしかったのか、少しだけ頬を染めている。
「大丈夫」
リスナーはサムズアップで応える。
「ラミちゃんさん、大丈夫でしょうか……」
シユは心配そうに言う。
「あのゴリラ天使さえなんとかすれば、他の天使に狙われることはないはず」
「はい……」
シユは納得するが、やはり少し心配そうであった。
「一旦はラミエルを信じるしかない。それじゃあ、このままシユのマンションに向かうぞ」
「はい……!」
シユも覚悟を決め、二人は再び走り出す。
◇
「ここです……!」
二人はマンションに到達する。
幸いにもその後は厄介な天使に遭遇することなく辿り着くことができた。
「おぉー、立派なマンションだなぁ」
リスナーはそびえ立つタワーマンションを見上げる。
「はい……まぁ、それはそうですよね……」
シユは自分が多少、裕福なマンションに住んでいたことがリスナーに見られて、少々、恥ずかしそうにしている。
流石にここで「大したことない」は嫌味に聞こえてしまうというのが一般的な通念だ。
「それじゃあ、ひとまず……エントランスホールへ行きましょうか」
「あ……おう……」
まずはエントランスホール……マンションを登るなら当たり前ではあるのだが、二人にとっては最初から緊張が高まるポイントである。
なにせそのエントランスホールはシユのお母さんが上位天使と戦った場所だから。
「確か……シユが一度、枕を取りに戻った時にはお母さんと上位天使はもういなかったんだよな?」
「そうです」
「わかった」
とはいえ、それが今回もいないという保証にはならない。
二人は慎重にエントランスホールに入っていく。
「家事スキル:探し物機能【
リスナーは
それは話に聞く、
「リスナーさん、それすごい便利ですね!」
「まぁ、バッテリー消費が激しいから常にやってるわけにもいかないんだけどな……事前に注意すべき場所がわかっているなら使える感じだ」
「なるほどです」
「うん……確かにここにはもう上位天使はいないみたいだ……先へ進もう」
「はい……!」
そうして二人は階段ホールへ向かい、シユの部屋のある20階を目指し、階段を昇り始める。
……
「はぁ……はぁ……なんとか辿り着きましたね……」
シユは息が上がっている。
しかし、シユの言う通り、なんとか20階に辿り着く。
ただ、実のところ、途中、天使に遭遇することもなく、到達していまった。
シユの息が上がっているのは、単に階段を昇るのが大変だったからだ。
「それにしても全然、天使さんいませんでしたね」
「そうだな、古い死体はいくつかあったけど……」
「でもリスナーさん、あの死体って……ひょっとして……」
「そうだな……シユとシユのお母さんが一年前にマンションを脱出したときの奴らだよな」
「ですよね……」
階段とフロアの間には扉がある。
一般的な天使は扉を開けて、部屋と部屋の間を移動することはほとんどない。
「それじゃあリスナーさん、我が家にご招待しますよ」
「あ、どうもです」
そうして二人はシユの家に向かう。
「ここが私の家です」
「おう……」
「そしてリスナーさん、ここへ来て、困ったことが……」
「えっ? なにそれ怖い」
「鍵が……家の鍵がありません」
「な、なんだって……」
リスナーの顔がこわばる。
「だって、よく考えたら、一年前、脱出するときにほとんどの荷物落としちゃったんですもん! 一度、戻った時は枕は回収できたんですけど、それ以外は見当たらなくて……!」
「そ、そうか……それは仕方ないな……でもまぁ、そうだな……いざとなれば扉ごと破壊して……」
がちゃ、きー
「あ、開きましたー!」
「えぇええ!?」
「そういえば一年前、特に鍵閉めてなかったですぅ!」
シユはてへぺろする。
「は、はは……まぁ、結果オーライか……」
リスナーは
とはいえ、無事に二人はシユの家に辿り着く。
「あー、帰ってきましたー! 一年ぶりです」
シユは流石に少し懐かしいのか、大きく手を広げながらそんなことを言う。
「みなさん! ここがよく話に出ていたシユの家ですよ! んー、一年前出てきた時と全く変わらないですね」
潜在的リスナーズへのレポートも忘れない。
「いけないいけない。うっかりくつろぎそうになってしまいましたが、今日はちゃんと目的があるのでした。それじゃあ、早速、お母さんの部屋へGO!」
そう言って、シユはとことこと廊下を歩き、突き当りの扉の前に立つ。
「ここがお母さんの部屋です」
シユはコンコンと扉をノックする。
しかし、返事はないようだ。
「…………不在のようですね。そりゃあそうですよね。〝終末あるある〟なんですが、あるわけないのに、呼びかけたら、はーいとかって普通に返事帰ってきたりしないかってなんとなく期待しちゃうんですよね。本当、あるわけないのに……」
シユは苦笑いする。
「……」
ここでは、リスナーはコメントせずに黙って聞いていた。
「それじゃあ、お母さんの部屋、侵入していきます! 実を言うとですね、お母さんの部屋の入室は許可されてなかったので、私も入るの初めてなんですよね! こういうのって諜報員家庭ではよくある話なんですかね? いや、でも、じゃあなんで、お母さんは「私の部屋にノートパソコンあるでしょ?」 なんて言ったんでしょうね……! 私、知らないっていうの!」
シユはケラケラと笑う。
「さあ、果たして本当にお母さんの部屋にノートパソコンはあるのでしょうか……! それではいざ!」
その掛け声と共に、シユはお母さんの部屋の扉を開ける。
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