くわばらテクニック

キリン

くわばらアッー♂

 「う〜、トイレトイレ!」


 今、トイレを求めて全力疾走している道下アーッツシは、予備校に通っていたごく一般的な男の子。

 成績はそこそこ、見た目もそこそこ……普通に優しく、普通に生きてきた青年だ。 


 「えっ……紙が、無い!?」


 やっとの思いで駆け込んだトイレの中、そこにはなんと一巻きもトイレットペーパーが残っていなかった。あるのはトイレットペーパーの芯がちらほら散乱しているだけで、とても安心して捻り出すことなんて出来やしない状況だった。


 「ああ、どこかにスペアは……あっ、でも、あっ……」


 アーッツシは最後の力を振り絞りケツ穴を閉める。──だが、奮闘も虚しく。


 「う、ううっ……あっ、んっ、ぁぁあああぁあ……」


 紙が無いという絶望的を突きつけられ、アーッツシは遂にガマンの限界に達し、そしてそれを超えてしまった。

 一生懸命に喘ぎながら閉じていた彼にケツ穴ATフィールドはこじ開けられ、その奥からホカホカの出来立てうんこがにゅるにゅるとパンツの中にぽとり、ぽとり……一部はパンツをはみ出し、ズボンと肌の隙間にべちゃべちゃと入っていく。


 「……ぁぁ」


 アーッツシのやらかしが、アーッツシ本人のケガレを知らないウブな身体をうんこまみれにしてしまった。彼は自分自身の痴態に涙を堪えた、しかし堪えきれずに泣いた。長年にわたり染み付いた小便臭さと、今自分自身が産み落とした出来立て大便のニオイに。


 「……ゆる、せない」


 さて、そんな平凡だった彼が、”普通”と違うところを一つ挙げるとすれば、それは既に彼は人間ではないということである。


 『ゆるせない……ゆるせない、ゆるせないゆるせないゆるせない!!!!』


 そう、彼は既に死亡している。

 そしてその魂は今もこの公衆トイレに縛り付けられており、生前最後の記憶を追体験し続けているのである。──そう、あの日彼は死んだのだ。いい年こいて泣きながらうんこを漏らし、そのショックが原因で心臓発作を起こし、そのまま便器に頭を突っ込んでトイレの便器の中の水に鼻と口を埋め、あろうことか溺れて死んでしまったのだ!


 『紙さえあれば……トイレットペーパーさえあれば僕は漏らさずに済んだ……死ななくてよかった、もっとマシな人生を送れていたはずなのに!』


 悪霊としての道下アーッツシは憤っていた。公衆トイレを使う世の人間どものマナーの悪さ、思いやりの欠如したこの嘆くべき状況に。

 

 『紙が無くなったら補充するなり清掃員の人に言うなりするでしょうが! お前らの怠けのせいで、僕は便器に溜まった水で溺れ死んだんだぞ!?』


 恨み、辛み、それらは全てアーッツシの悪霊としての力の源であり……総じて怨念の力として腹の中に蓄積されていった。何度も何度もクソみたいな死を再体験したことで、何度も何度もうんこを漏らしまくったことで……アーッツシの腹の中は怨念でパンパンになっていたのだ!


 『復讐してやる……』


 その怨念の矛先は、これまでトイレをマナー悪く使い……そしてアーッツシの間接的な死因の始まりである”トイレの紙が無いのにちゃんと替えのトイレットペーパーをセットしておかなかったクソ野郎共(複数形)”に向けられていたのである。


 『お前ら全員、クソミソ塗れにしたあと呪い殺してやる……!』


 きったねぇ復讐の構図を思い描きながら、アーッツシはトイレから一歩を踏み出す。ズボンからは下半身をベチョベチョにしているうんこを垂れ流しながら、口からはクソ野郎共への怨念やら悪口やらを垂れ流しながら……『悪霊』道下アーッツシは、死後数年ぶりに公衆便所への地縛から解き放たれたのだ。


 『……』


 便所から出ようとした瞬間、何故かアーッツシは便所の天井を見上げた。

なんてことはない、感傷に浸っているだけである。これから先自分がしようとしているのは大義名分があるとは言え人殺しであり、全部終われば地獄行き……今よりもっと辛いだろう。


 だが。

 それでも彼は、許せなかった。──故に、トイレのドアノブを握りしめ、開いた。


 「やらないか」


 そこには、見知らぬ男が壁に寄り掛かったままこちらをまっすぐに見つめていた。


 (ウホッ! いい男!)


 瞬時にアーッツシは喉を鳴らした。何を隠そう彼は男に見せかけたアレといいますか……まぁ簡単に言うと”ホモ”という部類の人間だったのである。彼氏&彼女イナイ歴=年齢+死後五年の彼にとってそんな機会はなかったが、願わくばこのようないい男とヤッてみたかったというのは本心の一部をシメていた。


 でもなんでこんないい男がここにいる?


 『……あの、僕のこと見えてます?』

 「やらないか」

 『えっ? あの、まぁ見えてる……のかな?」

 「やらないか、って。聞いてるんだ」


 ド、ォ、ン。

 壁ドン。

 なんと壁ドンである。目の前のこの白いTシャツに青色のデニムを履いたムキムキマッチョは、初対面のアーッツシに対して壁ドンを仕掛けてきたのだ。


 『ひっ……』


 アーッツシはその剣幕、そしてムンムンな色気に気圧され、踏み出そうとしていた一歩を押し戻され……トイレに逆戻りしてしまったのだ。そのまま便器に尻餅をつき、見上げるような形でいい男が見下ろしている。──というかいつの間にか、アーッツシはこのいい男に取り憑いてしまっていたのだ!


 「よかったのか? ホイホイ憑いちまって……」


 そう言って、いい男は爽やかで男らしいスマイルを浮かべながらアーッツシの顔を撫でた。くすぐったいような、でももっと触ってほしいようなそんな撫で方だった。


 『あっ……っ』

 「俺は、祟神だって構わないで、喰っちまう祓っちまう人間なんだぜ?」

 (……あっ)


 ああそうだ、思い出した。

 このトイレは昔、掘りたい男と掘られたい男のいい感じのたまり場……”ハッテン場”だったのだ。ネットの掲示板でも話題であり、深夜になったらアンアンアンアン……それはそれはクソミソカーニバルだったと聞く。


 断らなければ。

 断らなければ、ヤられる。──だけど。


 『……いいんです。こんなコト初めてだけど、あなたみたいな人なら……』


 アーッツシは最早自分が戻れないところにまでキていることを察していた。ケツ穴を掘られるまでもなく、まず最初に心のイイところを掘られてしまっていたのだろう……生前に敵わなかった初恋は、目の前のいい男に奪われてしまった。


 「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」


 そう言って、いい男はにぃっと笑った。笑ったまま、はち切れそうな肥えた魅力的な身体をさらけ出し……アーッツシの股間ではなくクソまみれのケツ穴に呼びかけた。──お前は、女役だ……と。

 

 「それじゃあ、とことん禊祓ってくそみそにしてやるからな」


 がばっ、と。

 いい男がトイレに座っているアーッツシに覆いかぶさり、逃げられないようにする。逃れることなど出来ないと悟ったアーッツシは、そのまま瞼を閉じて身を委ねた。


 「こっちを見ろ、お前の名前は?」

 『……道下、アーッツシです……』

 「可愛い名前じゃないの。俺は阿部ホーリィだ。お前を気持ち良く成仏させてやるからな。──さぁ、ズボンを脱ぎな」

 『えっ……僕が、ですか?』

 「俺の前で脱いでみろ、自分でな」


 アーッツシは赤面しながら、目の前のホーリィという男に困惑していた。


 (なんて人だ、これからスる相手に対して、自分でズボンを脱げだなんて……変態じゃないか!)


 だがアーッツシの身体は正直だった。中も外も既にホカホカ、触りたいし触られたいという欲望から、クソミソまみれの下半身やら貧弱な上半身をさらけ出す。


 全裸。

 生まれて初めて家族以外の人に見せた、ありのままの姿だった。


 「へぇ、既にクソミソってか。くっせぇな」

 『す、すみません……』

 「いいんだよ別に。どうせこれから、お互いクソミソになるんだからよ」

 『あっ!』


 ホーリィはアーッツシの股間に容赦なく手を突っ込んだ。既にガマンでビンビンのホイホイ人参を掴み、しごき…裏も表も先端も緩急をつけて撫でていく。


 『んぁ……あっ、んぁっ!』

 「イイ声出すじゃねぇか。オラっ、もっと鳴けっ!」

 『えっ、あっあっあっ……アッー!!!!!!!!!!!!!!!!♂』


 ガマンの限界だった。玉からググッと上がってきたそれは、ホーリィの男らしい顔にピシャリと放たれた。糸を引きながらイチモツを手で隠すアーッツシの顔は、涙とヨダレで彩られたアヘ顔であった。


 『す、すみません……』

 「……お前、相当誰かを恨んでたんだな。長年お前みたいなやつ喰ってきたが、こんなに濃いの出すやつは初めてだぜ」

 『……』

 「答えなくていいさ。ぜーんぶ……俺が受け止めてやるから」


 包容力といいましょうか、父性といいましょうか。

 とにかくこのホーリィという男は、いきり勃ったイチモツをずいっとアーッツシの顔に近づけた。


 「んじゃ、次は俺の番だ。ケツを出しな、ぶち込んでやる」

 『……あっ、あの。ちょっと一旦出てもらってもいいですか?』

 「あん?」 

 『その……もう、出そうで』


 アーッツシの尿道には怨念の混ざった白濁の他に、純粋な排泄物が溜め込まれていた。それはもうガマンの限界を迎えようとしていた……だが、それを見たホーリィは。


 「……良いこと思いついた。──ほらよ」

 『えっ?』

 

 なんとホーリィは、アーッツシに対してケツを向けたのです。そしてヒクヒクしているジャングルの奥の洞穴がささやきます……入れ、挿れろと。


 「お前、俺のケツの中でションベンしろ」

 『は?』

 「その方が怨念もよく出る。俺が全部受け止めて浄化してやるから、さぁ挿れろ」

 『でっ、でも……そんなことしたらその、おしりの中がメチャクチャに』

 「男は度胸! 何でも試してみるものさ、きっといい気持ちでイケ逝けるぜ。──ほら、遠慮しないで挿れてみろよ」


 女役と男役が変わったはずなのに、まだ自分が攻められているようななんとも言えぬ感覚にアーッツシは陥っていた。それでも彼のイチモツはビンビンであり、今すぐにでもこのジャングルの奥のケツ穴に突っ込みたいという欲望には抗えなかった。


 『んんっ……はぁっ』

 「うっふ。よぅし、じゃあ次はションベンだ」

 『ほ、本当に良いんですか……?』

 「おっ、ガマンしてやがるな? それじゃあ……オラっ!」

 『あっ、っぅ……んぅっ!』


 急激に締め上げられるイチモツ、撫でられるように擦られるイチモツ!

 なだれ込む快感にガマンが敵うはずもなく、遂にアーッツシの溜め込んだ怨念ションベンはホーリィのケツの中にぶちまけられたのだ!


 「いいぞ、どんどんお前の怨念が入ってくるのが分かるよ。しっかりとケツを締めとかないとな」

 『んぅ……あぁ、逝くイクぅ』


 気持ちよかった。

 アーッツシは怨念ションベンだけではなく、遂にはまたもや怨念白濁液をぶちまけてしまったのだ……自分でも分かる。さっきより、多い。あと濃い。


 「ふぅ……この分だと相当ガマンしてたみたいだな。腹の中が気持ちわりぃ怨念と恨みでパンパンだぜ」

 『はぁ、はぁ。……あぁ?』


 アーッツシは不思議なことに、さっきよりも気持ちが軽いような気がした。 

 復讐とか、仕返しとか……クソミソとかそういうの全部、どうでもいいと考えるぐらいには、清々しかったのだ。


 『……僕、もうすぐ逝かイカされちゃうんですね』

 「そうだな。まぁ安心しろよ、最後の最後ぐらい……気持ちよくさせてやるからさ。──ところで」


 ずいっ、と。

 凶刃が、狂気が、棍棒と見紛うような魔羅がアーッツシの顔に叩きつけられた。


 「俺のキンタマとマラを見てくれ……こいつをお前はどう思う?」

 『……すごく、大きいです……』

 「いや大きいのは誰が見てもわかるだろ。俺が言いたいのはそうじゃなくって……」


 がばっ、と。

 四足獣のような手つき、火照った肉体……マラをアーッツシに擦り付けながら、ホーリィは自分のイキリ勃っているデカマラを掴んで標準を合わせ、アーッツシの菊穴に擦り付けた。


 「このままじゃ、”収まり”がつかないんだよね」

 

 アーッツシは瞬時に理解した。この人の、ホーリィのデカマラは恐るべき生命エネルギーを蓄えている。

 もしもこれが自分のケツ穴にぶちこまれなんてしたら……最早悪霊としての自分は消え失せ、あっという間に昇天絶頂して逝っイッてしまうだろう。


 「今度は、俺の番だろ?」

 『……はい』


 だが最早、この世への未練は消え失せた。

 あるのはただ、目の前にいる自分を求めてくれている一人のいい男だけだった。


 『あぁっ!』

 「ううっ……こりゃあびっくりだ、腹の中が怨念でパンパンじゃねぇか!」


 アーッツシの意思とは裏腹に、溜め込んでいた悪意や復讐心を糧にした怨念がアーッツシの散らされた菊穴の隙間から溢れ出す。クソミソどころの騒ぎではない、このままでは……彼のケツは爆発してしまうのだ!


 『で、出る……このままじゃ、出る……!』

 「なんだぁ? 今出したばかりなのにまた出すってか? 男を見せやがれ男を! ちゃんとケツ穴シメて、テメェのクソをケツ奥に押し込みやがれ!」


 アーッツシは感じていた。ホーリィのマラは、少しずつではあるがアーッツシの奥の方に居座っているクソミソな怨念共を浄化している! 

 

 だが、足りない。

 このままでは、溢れ出す!


 「……いいよ、いいよ」

 『ほ、ホーリィサァン……?』

 「俺がこいつで栓しといてやるから、遠慮なく出せ。安心しろ、こう見えても俺はお前みたいな早漏悪霊に対する必殺技を持ってるんだ」

 『だ、駄目です……そんなことしたら! ホーリィさんだって僕の怨念で……』

 「みんな纏めてクソミソってか? 上等! 男は度胸だ、たまにはお前みたいなやつとクソまみれでヤリ合うってのも悪くねぇって今思えたしなぁ!」

 『アッー♂!!!!!!!』


 アーッツシの喘ぎ声と共に、ホーリィのピストンが加速していく。溢れ出すクソと怨念、それらは徐々にホーリィのイチモツを蝕んでいく。


 『ああっ!! んっ、あっ……ホーリィ、はぁん……』

 「黙って鳴いてろ……俺は、お前を、逝かイカせる……っ!」


 快楽と痛みに身を委ねながら、ホーリィは呪文を口ずさむ。くわばら、くわばら……退魔の呪文、呪を退ける言霊を!


 「見せてやるよ……」


 ビクン、ビクン。

 キャンタマからせり上がってくる生命エネルギーの鼓動は、挿れる側も掘られる側にも痺れるような快楽を与えていた。そしてそれは、ケツの奥に蠢いている怨念共に悲鳴を上げさせた!


 「俺のっ、くわばらテクニックをッッ!!!!!!」


 腰使い、呼吸、それら全てが合わさり、引いた腰が打ち付けられる!!!!

 パン、パン、パン。リズミカルに振るわれた腰、遂に生命エネルギーは直接アーッツシの生暖かい直腸の中に放り込まれ、そこに頑固に居座っていたクソミソな怨念を浄化してしまったのだ。


 「ふぅ、ふぅ……スッキリしたぜ、うんこまみれだけどよ」

 『そう、ですね……』


 そして浄化されているのは、アーッツシも同じだった。

 彼の存在を手助けしていた怨念が消え去り、彼もまた成仏し始めていたのだ。


 『抜かないでください』

 「っ……」

 『最後まで、あなたのたくましいお◯ん◯んを感じていたいんです……』


 双方、竿からも菊からも出すものを出しまくった。未練なんて無い、誇りさえ感じる……そんなことは彼らにとって、言葉を用いて語る必要なんて無いほどに明確で、分かりきっていた。


 『……ホーリィさん。ありがとう、ございます』

 「ああ」

 『あなたのお陰で、復讐を……みんなをクソミソにするっていう馬鹿みたいな考えを、捨てられました。……スッキリして、成仏できそうです』 

 「……来世では、ちゃんとマイトイレットペーパーを携帯しとくんだな」

 『あははっ、そうですね。言えてます』


 もう、時間みたいだ。

 締めたケツ穴でしっかりとホーリィのマラを掴んだアーッツシは、無言で別れを伝え……そして、惜しんだ。


 「……じゃあな、アーッツシ」


 ホーリィがそう言い終わる頃には、彼自身のお◯ん◯んは夜風に冷やされており、ぶち込んでいたはずの菊穴も……あの可愛らしいクソミソ青年もどこにもいなかった。

 

 「お前のこと、忘れねぇからよ」


 仕事は終わった。

 あとは、このクソミソな身体を銭湯に行って洗えば……アーッツシの存在を証明できるものは全て下水に流される。彼がかつて、どうにかして水に流したかったうんこのように。


 脱いでいた服をもう一度身につけ、一人残されたホーリィは手洗い場の鑑に向き合った。


 「……おいおい」


 思わず彼は、笑ってしまった。


 「結構高かったんだぜ? この服」


 そこには、つい数時間前までは真っ白だったはずの……茶色と黄色がこびりついて黄ばんだ、Tシャツを着ているいい男が立っていた。


 ――と、こんなわけで、アーッツシの最初で最後のハッテン場体験は、クソミソな結果に終わったのでした……。

 




「作者からのお願い」

頼むからこんなクソミソなクソ小説よりこっち読んでくれ

https://kakuyomu.jp/works/16818093085789107286/episodes/16818093085789192143

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くわばらテクニック キリン @nyu_kirin

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