第3話・追い込まれた敵がヤケクソで強化されるのはアルアルだよね

 悲しい事にカーディナルウチの敵組織はわんさかいる。

 というのもブラッドやブレインが手当たり次第に喧嘩を売りまくったり、タナトスが絞めまくったお陰でコチラの味方はほぼゼロ。

 普通なら壊滅してもおかしくないが、ウチの四天王は異能の中でも特殊な能力持ちで悉く返り討ちにしてしまった。

 そのおかげで裏社会では有名になったらしく、敵対組織は警戒しまってるみたいだが……。目の前には敵組織の拠点であるビルが轟々と燃えている。


「うん、相変わらずアイツらはやりすぎたろ」

「でもコレでウチの怖さは知ったはず」

「だといいけどな」


 桜が舞い散る四月の中旬。都内で燃え盛るビルを見る俺達。

 敵対組織のアジトがある都内にきたはいいが、ブラッドとタナトスが働きまくり俺の出番がなくなった。

 

 ほんとあいつらは仕事が早いな。

 ブラッドの手で叩きのめされた敵組織の構成員が、タナトスの鞭に縛られてビルの外に追い出されている。

 後はコチラに急行してくる魔法少女共に押し付けたらやる事は終わるが……アイツらは満足してなさそうだな。


「おいおい、一大派閥のガードレールさんがこの程度かよ」

「がはっ!? な、なぜカーディナルが関係のないウチを狙うんだよ」

「それは貴方達が色々とやりすぎたからでしょ」

「なっ、脳筋ポンコツだけじゃなくて腹黒女王までいるのか!?」

「「その名前で呼ぶな!!」」

「ぐはっ!?」


 あ、あのー、貴女達が道端で引きずっているのは敵組織の首領ですよね。

 というかサイレンの音がうるさいし、いくら深夜でも人が集まってきそうだな。


「さてと、崩壊はできたっぽいし待ち人までのんびりするか?」

『そうしたいのは山々ですがソチラに魔法少女の小隊が向かいましたわよ』

「やっとお出ましだね」

「動きの遅いアイツらにしては早い対応だな」


 通信機器から聞こえるオペレーター・ブレインの声。

 ふと空を見上げると魔法少女達の姿が目に入ったので、お楽しみ中の配下二人に声をかける。


「そいつで楽しむのもいいけどがきたぞ」

「ははっ、そりゃ楽しみだぜ」

「先に言っとくけど私の分は取らないでよ」

「さあなー? まあ、そこは早い者勝ちだろ」

「もうっ!」


 とりあえず敵組織の構成員は鎖で縛ってと。

 タナトスが能力で引っ張ってきた奴らを鎖で縛っり、コンクリートの地面へ転がしていく。

 コレでミッションはコンプリートしたので、回収した現金とかをエクシアに転送してもらう。


「ボクの出番はなかった」

「まあでも働いてくれてありがとな」

「うん! あ、コレで終わりだね」


 拠点へ現金の輸送終了。

 後はコイツらの悪事が乗った書類を置いて撤収するだけだが……。

 どこか嫌な予感を感じたので改めて空を見上げると、三十人ほどの魔法少女……映画に出てきそうなパワードスーツを着た女性達が突撃銃アサルトライフルを向けてきた。


「そこまでよ!」

「やっとお出ましかよ魔法少女ども!」

「ぐっ、なんでここに脳筋ポンコツが!」

「いっとくがオレだけじゃないぞ」


 うん、この状況でコチラに向かないで。

 というか魔法少女という割に、杖とか剣じゃなくて殺意ガンマシの突撃銃とかおかしくね?


「え、あ、アンタはまさか!?」

「あのー、帰っていいかな?」

「カーディナルの首領を返すわけないじゃない!」


 あらら、やっぱりそうなりますか。

 コチラは四人で相手は三十人ほど、人数差が大きいけど負けるつもりはない。


 ただコイツらではないがやばい雰囲気があるので、四天王には通信で飛ばしておく。


『お前ら油断はするなよ』

『もちろん! あ、コイツらは殺さないんだよな』

『あまりヘイトは稼ぎたくないし頼んだ』

『ふふっ、了解』『『了解』』


 魔法少女でもコイツらは雑兵レベル。

 ぶっちゃけブラッドに任せれば終了するので、俺は油断せずに周りを警戒していく。

 

「今日こそあいつらを捕まえるわよ!!!

「「「はい小隊長!!!!」」」

「アイツらは元気だね」

「だなー……。って、ブラッドが馬鹿正直に突っ込んだな」

  

 ブラッドの戦い方は豪快だよな。

 アイツは吸血鬼のとんでも再生能力でのゴリ押しを好み、どんだけダメージを受けようが再生してパワーで殴るタイプ。

 対するタナトスはいたぶる事が大好きで、対抗できなくなった相手を沼に放り込む。


 どっちもどっちでえぐい戦いをするが、一番やばいのは俺の隣にいるエクシア。

 彼女は転移を使って魔法少女の隊列を崩し、油断したところを他二人に叩かせている。


「お、おまえたち、援軍が来るまで持ち堪えてくれ!!」

「「「は、はい!!」」」

「何を考えてるか知らねーが、一気に叩き潰す!」

「がはっ!?」

「しょ、小隊長! よくも、きゃああ!」

「アンタはコッチよ」

 

 タナトスの異能は女王様。

 相手を拘束する鞭やナイフを召喚したり、服従させる力を持つぶっ壊れ。

 このおかげで魔法少女の小隊は崩壊して、最終的には全員地面に沈んだ。


「ボスが言ってたのはコイツらか?」

「多分ちが、ブラッド離れなさい!」

「うおっ!? あぶねー!」


 間一髪の回避。

 空中に飛び上がった二人の足元から現れたのは、黒いスーツに刀剣を持つ黒髪ポニーテールの美女。

 年齢は二十代後半っぽいが、彼女の瞳は静かな炎が灯っていた。


「よくもやってくれたわね」

「おいおい、先に攻撃してきたらのはお前らだろ」

「アンタ年上に対する敬いはないの?」

「オレが敬うのはボスだけだ!」

『先に言うが突っ込むなよ』

『わかってる』


 嬉しい事をいってくれるねー。

 二人を捨て駒にしたくないし、一旦体勢を立て直したいところ。

 コチラの意図を察したのか、ブラッドとタナトスはこちらに戻ってきた。


「でだ、アイツはどうするんだよ」

「何個か思い浮かぶけど一番は人質かな?」

「確かに一番それがやりやすそうね」


 ぶっちゃけ俺らは悪側で正義の味方じゃない。

 このまま地面に沈んでいる魔法少女を盾にして引くのが一番賢いが、敗退したとなると敵組織にウチが舐められる可能性がある。

 

「あらあら、もしかして作戦会議をしてるの?」

「凄腕の魔法少女を相手に無策で突っ込むバカではないんでな」

「意外と視野が広いのね」


 そりゃどうもー。

 チリチリに燃え盛るビルにサイレンの音。

 こちらに近づいてくる救急車やパトカーに気がとられつつ、一定の距離をとりながらポニテ女性へ言葉を返す。


「このまま時間を稼がれるのも嫌だし帰らせてもらう」

「それをワタシが許すと思う?」

「悪いが

「「「ぐうっ!?」」」

「なっ!? アンタは魔法少女を人質にするの!?」

「それはあんた次第だよ」


 ここで向こうが選択を間違えなければ問題ない。

 歯を食いしばりながら拳を握っているポニテ女性と、俺が作り出した黒鋼の剣を首の横に置かれて怯える魔法少女達。

 この状況はコチラが有利だけど、ふと嫌な予感がしたので違う場所を見ると敵組織の親玉が何かを口にした。


「こうなったらみんな死んでしまえ!」

「なっ、なぜお前が異能暴走薬を持ってるだ!!」

「があぁ!?」


 うそおー、このタイミングでソレを使うの?

 親玉のハゲ親父が異能暴走薬……つまり、命と引き換えにとんでもない化け物に変化した。

 大きさは五メートルほどでヤギみたいな顔に立派なツノ、体は真っ黒で右腕には分厚い剣を持っている。


 まるで悪魔だな。

 とんでもない光景に目が点になってると、通信機材からブレインの焦った声が届く。


『緊急! ボス達の目にしている化け物は危険度イエロー級です!』

「やっぱりか……」


 危険度イエローは五段階のウチの三段回目。

 能力的には街を一つ吹き飛ばすレベルの力を持ち、魔法少女の最高ランク・魔天がいない限りは大きな被害が出る相手。

 このまま放置すればココが更地となり、多くの人々が死に追いやられる。


「ぐおおぉ!」

「ちっ! タナトスとエクシアは周りの奴らを避難させてくれ!」

「「了解」」

「オレは?」

「ブラッドは俺と共に化け物アイツをぶっ倒すぞ!」

「了解!」


 コレで人員の配置は終了。

 後はブレインにバックアップをしてもらい、あの羊頭の化け物をぶっ倒すのみ。

 地面に倒れている魔法少女(雑兵)と構成員の避難はタナトスとエクシアに任せ、俺は自分の能力である黒鋼を使い突撃銃アサルトライフルを再生していく。


「なんでコチラを援護するんだ!」

「お前らは嫌いだけどココにいる市民には迷惑をかけられないだろ!」

「どの口が……。まあ、でも感謝する!」

「へえー、そう言うならアイツを倒すのに手を貸してくれるんだよな」

「今回だけだぞ!」

「そうかい」


 しっかし見るからに凶暴そうだな。

 ただここでコイツを倒しそびれると大きな被害が出るので、俺はため息を吐きながら指示を出す。


「援護は俺がするからお前らは突っ込んでくれ」

「ちょっ!? 男なら一緒に突っ込みなさいよ!」

「ははっ、ボスは奥の手なんだよ」

「いやあの、ワタシの話が通じてないの?」


 話が噛み合ってない気がするが仕方ない。

 とりあえず突撃銃のトリガーを弾いて弾丸を飛ばすと効いている気配はあるので、前衛は二人に任せながら笑う。


「行くぞお前ら!」

「おう!」「あ、はい!」


 敵との共闘は熱い。

 内心でそう思いながら羊頭の化け物相手に俺達三人は勢いよく突っ込むのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る