第3話 私が穿いてて、雅が穿いてなくて

「奏、ちょっといい?」


「え?」


 ノックもなしに思春期真っ最中である女の子の部屋に入るのは、少し教育が必要かもしれない。

 だって私は今着替え中で、下着姿なのだから。

 いくら同性とはいえ、体を見られるのは恥かしい。


「なにーいきなり?」


「明日の授業についてなんだ、け……ど……」


 雅には少し衝撃的な体つきだったか?

 まぁ彼女にはない物を、私は持ってるからね。


「そんなに見ても無駄だよ?諦めたらぁ?」


 私はわざとらしく、挑発的に体をくねらせた。


 雅がレベル1とするならば、私のレベルは4。そりゃあ15歳のお年頃なんだから、気にもするだろう。


 雅の視線が突き刺さる。

 その目は負けてショックを受けているのか、目を大きくしたまま固まっている。

 優越感に浸る中、私はふと思う。


 あれ?別に見られるの初めてじゃないような?

 なんなら週1くらいで見られてる。いや見せてる?


 なのにどうして雅は驚いているのか?私は手を顎に乗せ、考える。



 ……分からない。


「どしたの?」


 私は諦めて正直に聞いた。


「奏、そのパンツどうしたの?」


 パンツ?この黒くてエッチで、でも少しフリフリが施されてて可愛らしい、このパンツ?

 言われてみれば買った記憶がない。

 でも家にあったのだから私のに違いない。お母さんの物だったら私はきっと家出してしまうかもしれない。

 だが、私はまだこの家に住んでいる。

 だから私のに違いない。買った事を忘れているか、お母さんが買ってきたのかもしれない。



「私のだっ!」


「嘘をつかないで。絶対に私のだと思う。奏がそんなセンスのいい物、選ぶはずがない。違う?」


 さらっと酷いを言われた気がする。

 いいでしょう。なら仮にこのパンツが私のじゃないとして、じゃあ何故雅のパンツになるのか。


「名前書いてあるの?」

「この歳でそんなことすると思う?」

「じゃあ雅の物である証拠がないじゃん」

「奏の物だという証拠は?」

「私の家にある。私が穿いている」


 確かに証拠を出すのは難しい。けれど雅だって同じことだ。

 このパンツは私のじゃないかもしれない。いや、きっと私のじゃない。

 こんな高そうなパンツは買わないし、こんな黒くてエッチすぎるの、私が買えるわけがない。

 誰が買うかこんなの。レジに持って行く時とか恥ずかしいでしょ?店員さんに心の中で「えーこの子がこのパンツをー?似合わなーい」なんて思われて、笑われるに違いない。



「この前シャワー借りた時に忘れたの」


 私は正直に自分の非を認めた。


「…………じゃあ雅のだ」


 そう呟いた瞬間、私の頬はヒリヒリと痛みを帯びた。

 突然の出来事で何が起こったのか、私の脳が処理を急ぐ。


 叩かれた。しかも結構本気のビンタ。


「……え?」

「最悪。早く脱いで」


 雅の顔はいつも通りの無表情。でも幼馴染の私には分かる。本当の本当に怒ってる顔。


 私は何も言い返せずにパンツを脱いだ。惨めな自分が恥ずかしくなり、毛布を手に取り、体を隠してしまう。


「ごめん。でも洗って返した方がいいよね?」

「自分で洗う」


 雅はそれだけ言って私の手からパンツを掴み取る。


「気持ち悪い……」

「で、でもまだ穿いて数分だよ?そんなに汚れてないと、思う」


 恥かしい。パンツ1枚でこんなにも惨めになってしまうのか。

 笑ってくれるならまだしも、雅にそんな芸当、持ち合わせてるはずがない。


「ごめんね?わざとじゃないんだよ?」

「わざとだったら軽蔑してるよ」

「でも、忘れた雅も……この前って、シャワー貸した後、普通にこの部屋で過ごしてたよね?」

「…………」

「え?ノーパンの癖に涼しい顔で過ごしてたってこと?それともそんなスリルを楽しんでたとか?ねぇねぇー教えてよぉ?」


 私はまた調子に乗ってしまった。


 本気で怒っている雅に対して私は、煽ってしまう。

 ハッと我に返っては、何が飛んできてもいいように身構えた。


 雅は何も言わず、何もしてこず、ただ静かに振り返っては部屋を出て行こうとした。

 ドアを閉める寸前に雅の横顔が見え、小さな声で一言。


「知らない」


 その横顔は見た事のない顔。

 頬が少しだけ火照っているようにも見えたし、どこか艶めかしくも感じた。

 怒った顔をして、殴ってくるものだと思っていたのに、全く予想外の反応。


 幼馴染を10数年やっている私は1つ気付いてしまった。

 いつも私には無表情で、酷い扱いを受けているのに、去り際の横顔が何度も私の頭の中でループする。




 もしかして雅って可愛い?

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