3日目

 少女は、重いまぶたを開いた。



 そこには、一昨日おとといや昨日と同じ、真っ白な空間が広がっているのだろうなと、少女は、予想した。



 しかし、現実は、少女の予想と少々違っていた。



 箱は、人間が2,3人詰めるのがやっとなぐらい、小さくなっていた。恐ろしいぐらい白い壁が、目覚めた場所から触れられるぐらい近くにあった。



 四方八方を、白い板か、壁かによって囲んでいるから、右左、上下の感覚を狂わされそうになった。また、ぐらっとした、眩暈めまいを誘われた。



 少女は、狭い空間から圧迫感を募らせ、立ち上がろうとした。



 立ち上がれない。



 力が入らない。



 腕を動かすが精いっぱいであった。



『おはようございます。3日目ですね』



 そして、パソコンの画面ぐらい小さく縮んだスクリーンが、眼前にあった。



 少女は、これまた真っ白なベッドに寝かされていて、左手首には、点滴の管が繋がれていた。管が届ける液体は、血の色のような深紅をしていた。



 この真っ赤な点滴は何だろうかと、少女はスクリーンにいた。



『あの世への切符です』



 また訳のわからないことを、スクリーンは、文字で言った。


 少女は体をよじるが、ベッドから這い出すことさえ困難だった。



 そして、手元には、一冊の手帳と一本の鉛筆があった。



『今日は最後の日ですし、親しい人にメッセージを書いてはいかがでしょうか』



 少女は困惑しながらも、日付が変わったら、自分が死ぬのだと思い出して、空色のガラス細工のような瞳の裏に、涙を溜め込んだ。うるうるとして、手に持った手帳が、鉛筆が、スクリーンの黒い淵が歪んで見えた。



 しかし、どうせ、箱から出られないのだろうなと悟って、少女は、ベッドで横になりながら、手帳にメッセージを書き残した。



 メッセージが、大切な人たちに届くのかは、わからなかったが。



『優しいパパ、ママへ。今までありがとう。今日まで楽しかったよ、大好き。ばいばい』



『親友ちゃんへ。学校で仲良くしてくれてありがとう。わたしを助けてくれたこと、地獄に行っても忘れないよ』



『先生へ。授業、楽しかったです。またどこかで会えたら、「生き方」について教えてください』



 鉛筆を持つ手が震えて、書いた文字が、地を這う蛇のようにうねうねとしてしまった。



 少女は、目覚めたばかりであるのに、強烈な眠気に襲われた。



 寝たくないと、スクリーンに対して訴えた。眠ってしまったら、もしかすれば、そのまま死んでしまうかもしれないと思ったから。



 しかし、スクリーンは、何も言ってくれなかった。



『あ、おやすみなさい。お疲れ様でした』



 薄目で、スクリーンの文字を見たのを最後の景色に記憶して、少女の意識は、霧と消えた。




 箱が、閉じた。

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