〈8話〉マンドラゴラに名を!
ザリアが帰った後、俺は魔女が残していった私物の中でマンドラゴラを抱きながら寝た。寝心地は良くなかったが、タルタヘイムに比べて束縛感がなかったからそれなりには眠れた。それでもガラクタの中で深い睡眠には入れず、体感で朝の5時くらいには目が覚めた。
「んあんあ」
寝を覚した時、マンドラゴラは既に起きて俺の腕に頬をスリスリしていた。
「お、おはよう。よく眠れたか?」
「んあんあ!」
ダメだ、何を言っているのかは分からない。
マンドラゴラを改めてよく見ると、意外と可愛らしい見た目をしている。人参のような体型ではない。なんて言うんだろう、株の太さで大根の長さくらいというのが正しいのだろうか。足は短くよちよちという感じで、手は長い根っこみたいだ。目は細いが大きい。頭のてっぺんからは大根の様な葉が伸びている。
「お前も色々と大変だったな」
俺のせいだけど、、、
懺悔の気持ちを込めて頭を撫でてやると、マンドラゴラは嬉しそうにさらに俺の腕に頬を擦り付けてきた。
マンドラゴラを体から離してから立ち上がり、体の間接を伸ばしてから外に出る。森の中の朝はとても静かで新鮮な空気が漂っていた。
さて、まずは飯を食おう。それから掃除だ。
地下室で俺でも食えそうなものを探した。魔族の飯なんてどんなものが出てくるのか知れたものじゃないから不安だったが、倉庫には俺でも食べられそうな食糧が結構あった。
「んあんあ!」
俺の後ろを着いてきてたマンドラゴラが魔法で気温が下がっている冷蔵庫のような役割を果たす棚から肉の塊を持ち出し大事そうに抱えていた。
え、マンドラゴラって肉も食べるの?
俺のことは食べないよね?
「それがいいのか?キッチンごちゃごちゃで火とか通せないけど?」
「んあ!」
マンドラゴラは生でも余裕といった様子で声を張上げる。たくましい限りだ。
「わかった、お前はそれな」
俺は適当にそのまま食べれそうな果実を持って倉庫を出た。
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マンドラゴラと暮らす以上、こいつにも名前がないといけないな。
得体の知れない生肉を美味そうに頬張っているマンドラゴラを見ながら俺はそう思った。
にしても、生き物に名前をつけるなんて小学生の頃に飼っていた金魚に権三郎とつけたことぐらいだ。
うーむ。何がいいんだろう。
俺に名付けのセンスがあるとは思えないが、勇者を殺した神器のような存在のこいつに似合った名前を見つけ出してあげたい。
うーーーーむ。
うーーーーーーーむ。
この果実まずっ。
うーーーむ。
あ、こっちは甘くて美味しい。
うーむ。
うむうむ。
「シア」
マンドラゴラが生肉を平らげて満足気にお腹をさすっている姿を眺めている時、その名前が浮かんだ。
「お前の名前、シアでどうだ?」
「んああ!」
言っていることは理解できないが、両手をあげてニコニコしているから喜んでいることは分かった。
勇者である人間の救世主を殺した武器であり、俺にとってもあの時唯一武器になった救世主の存在。だから救世主を意味する「メシア」から1文字消した名前をつけた。1文字消すことが、勇者に対する償いのように感じた。
「まあじゃあ、改めてこれからよろしくな、シア」
「んあんああああ!」
シアは名付けて貰ったことが嬉しいのか、ごちゃごちゃな家の中をモタモタと走り回った。
気に入って貰えたなら良かったけど、走り回らないでね?
埃がすんごいから。
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