〈7話〉初めての同棲


魔王直々に用意した家だ。粗末と言えどそれなりに豪華だと思ってた。俺が間違ってた。


いや、俺だってわかってますよ?


我儘言える立場じゃなことぐらい。


でもあまりにもボロボロな家だった。


家なのか?家の定義が屋根があるかないかで決まるんなら家だよ?


「ここは昔、知り合いの魔女が住んでいた場所なんだが、その魔女が出ていってからは誰も手を触れてなくてな。魔女は片付けも掃除も苦手で、私物を諸々置いていったからこのようにぐちゃぐちゃな状態だ。すまんな」


「イエイエ、スゴクスミヤスソウデスネ」


家は外装内装共に崩壊しかけていた。外には人間100人は余裕で長縄跳びができそうなほど長い蔦が壁を這い回り、中は本やら変な瓶やら腐った薬草やらが占拠している。


「この家の周りは深い森に囲まれていて、強い魔力を糧に進化を遂げた魔獣が大量に湧いているから近づかない方が良い。家には魔女がかけた魔除けの結界が今も張られているから安全だ」


なるほど、誰も近づけないし出られない場所ってことだ。


「わかりました。食べ物とかはどこかで調達する感じになるんでしょうか?」


「心配するな、当分は1週間に1度、唯一このことを教えてある配下に食糧を運ばせる。最初の1週間分は既に地下倉庫に運んである」


「何から何までありがとうございます」


「魔鳥を1羽置いていく。困ったことがあればこの鳥に手紙を括りつけて飛ばせ」


ザリアはそう言って小さい魔法陣から大福のような白い小鳥を召喚した。何その魔獣可愛い。


「最後に、君の相棒を紹介する」


相棒?


「監視役とかってことですか?」


「まさか」


ザリアは再び系統の違う魔法陣を展開し、俺の相棒なる存在を召喚した。


「こいつって、、、、、」


「今は眠らせてある」



----------マンドラゴラだ----------



魔法陣の中には俺が勇者を撲殺した時に使ったマンドラゴラが深い眠りに着いていた。


「このマンドラゴラは元々私が育てていたんだが、植木鉢から出されてからは叫んで眠って叫んで眠っての繰り返しで困っていたんだ。そんな時だ、魔水晶で君の様子を見せたらパッタリと泣くのをやめてその水晶を大事そうに抱え始めた」


ん、


俺の様子って見られてたんですか?


それ最初に言って欲しかった恥ずかしい。


「この家は魔女の結界で魔水晶で覗くことも出来ないから安心しろ」


ザリアは俺の心を見透かしたかのような言葉で俺を安心させた後でマンドラゴラについての話を続ける。


「どうやら君に懐いてるようなんだよ。このマンドラゴラは希少種で生態が殆ど未知だから、私にもどうして君に懐いたのかは分からないがね」


ほう。未知のマンドラゴラ希少種か。


あんまり関わりたくないけどなあ、、、


1回記憶飛ばされてるし。


「今は移動のために睡眠魔法をかけている。じき目覚めるだろう」


「えっと、じゃあ俺はこいつを育てれば良いってことですかね?」


「マンドラゴラは1度土の中の眠りから覚めるとそれ以降に土の中に戻ることはほぼないとされている。だから君と同じ生活様式で問題ないだろう。言葉も理解できるようだからそんなに苦労はしないはずだ」


「わかりました」


「では私はそろそろ行く。勇者が死んだとはいえ長く城を開ける訳にも行かないからな」


「ありがとうございました。ザリア様のおかげで何とか生きていけそうです」


俺の感謝にザリア様は気にするなという感じの優しい笑みを浮かべてから来た時と同じ魔法陣を展開して城へ帰って行った。


色々と分からないことも多いけど、とりあえず一段落だ。1週間タルタヘイムに監禁されていたことが信じられないくらいに身体中に開放感が巡っている。


「まあこれからよろしくな、勇者を殺した共犯同士仲良くやろうぜ」


まあ、俺が勝手にマンドラゴラを凶器に使っただけだけども。


俺は今も眠りの中にいるマンドラゴラに挨拶したが、当然返事はなかった。


とりあえず俺も寝よ。




━━━━━━━━━━━━━━



《魔王城・ザリアの部屋》


森の中にアキを送り届け自室に帰ったザリアの前に、1人の魔族の女がその深緑の長い髪をいじりながらテーブルの椅子に座っていた。


「無事に送り届けられた?」


「ああ、家の状態については不満があるようだったが、解放されて安心していたよ」


「でも良かったの?あのマンドラゴラもあげちゃって?」


「彼に懐いている以上、傍に置いておくのが得策だ。あれはただでさえ得体がしれないのに、勇者殺害の時に勇者の血に浸って魔力が特殊変化した。魔王城に置いておくには危険だ」


「それは彼には伝えた?」


「まさか」


ザリアはアキの前では見せていない類の悪魔的な笑みを口元に浮かべる。相対する女の魔族もそれに呼応するように口角を上げる。


深まった夜の魔王城の一室に、2人の魔族の禍々しい魔力が充満していた。


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