〈6話〉魔王との密談②


「この世界は現在、魔界と人界で500年に渡る戦争状態が続いている」


お、地理の次は歴史か。


「200年前、魔界では人界との和平案が持ち上がり、当時第2位の魔王が人界に交渉に行った。だがちょうどその時期、人界に神の力を授かった勇者が降臨した。交渉に向かった魔王は勇者の軍と共に生首になって帰ってきた。当時の私は序列第6位だったから、敵地とは言え序列第2位が殺されたと聞いて驚いたよ」


「その後和平案は取り消され、300年に渡って人界からの侵略に対処し続けている」


「その言い方だと、魔界だけが人界から攻撃を受けているみたいですね」


「実際その通りだ。和平案が持ち上がって以降、我々は人界への攻撃をしていない。我々は戦争に疲れていたんだ。互いに資源を浪費し合って殺い、憎しみだけが増え続ける。だが、人界は違う」


ザリアは夜空をその真紅に染った赤い瞳で眺めながら言った。


「人界にとって我々との戦争は経済の潤滑油となっていた。我々の戦闘は主に魔力によって行われるが、人間は違う。もちろん魔力も使うがそれだけでは我々に勝てるはずもない。だから武器や薬品で自身を強化するんだ。今の人界経済はそれらの製造や売買で成り立っている。だから彼らは戦争をやめられない。勇者が降臨して戦争の士気も高まっているしな」


愚かだ、でもとても人間らしい。


「勇者の力は代々継承されてきた。そして今回の勇者は歴代と比べて戦闘意欲が高すぎたんだ。頻繁に軍でバーナス大陸に攻め込んできて、混乱に乗じて勇者の本パーティ数名でこの城に殴り込んで来た。正直参っていたんだよ、だから今回奴を葬ってくれたことには本当に感謝している」


「勇者はちゃんと死んでましたけど、勇者の力も一緒に消滅したんですか?」


「いや、勇者本人が死んでも、勇者の力は次の選ばれた者に宿るようになっている。今頃人界では次の勇者が選ばれている。だが立て直しには時間がかかるし、今までの勇者よりはいくらかマシになるだろう」


なるほど大体分かったぞ。


どうやら話が通じないのは魔界よりも人界の方らしい。もっとも、魔界側の意見しか聞いていなのだから断定するのは良くないが、ザリアが嘘をついているようには見えない。


「少し話しすぎたな、そろそろ行くとしよう」


「いえ、こちらこそ外の空気を吸わせてもらった上に大体の事情まで教えて貰って助かりました。またあのキノコの温床に戻らないとなのはちょっとしんどいですけどね、、、」


「その事だが、もう君はタルタヘイムに戻らなくて良い」


おや?


「でもまだ俺についての審判は決まってないんですよね?」


「君はタルタヘイムで気が狂って自殺したことにする」


おやおや?


「君の人相はまだ私の配下以外にはバレてないし、名前も他の魔王たちには偽名で報告してある。だから君はこれから自由だ。これは私が勝手に決めたことで、これがバレれば私は魔王の地位剥奪の上処刑されるだろう。だから誰にも言うんじゃないぞ?」


来ましたこれ、神展開です。転生したんだからやっぱりそうこなくっちゃな。分かってるじゃんザリア様。


「でもなんで急に?」


「急ではないぞ。最初から君を解放することを考えていた。だから偽名を報告していたし、色々と手も回した。1週間近く君を投獄していたのは建前だよ。それに、独断で釈放することができなくても、勝手に自殺したのなら私にもどうすることも出来ない。そうだろ?」


天才だよザリア様。さすが魔界第3位の魔王、同性だけど好きになってしまいそうだ。


「君には粗末だが家を用意してある。暫くはそこに籠って暮らすことだ、勇者殺害の1件が落ち着くまではな。それからは君の自由にすると良い」


「何から何までありがとうございますうう」


「気にするな、では行こう」


そう言うとザリアは2人分の魔法陣を形成して二人で新たな住まいに転移した。


皆さん今まで心配させてしまってごめんなさい。


佐々木アキは無事に第2の人生を始められそうです。


家は森の中で本当に粗末だったけど、、、

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