〈4話〉仮入居


どうも皆さん、佐々木アキです。


勇者を殺しました。


正確にはマンドラゴラの入った植木鉢でぶん殴りました。


そんな最悪な出だしでしたが、なんとこの度、異世界に転生して早速住まいを手に入れました。


日本のはアパートより一畳ほど狭いですが、家賃無料、警備は厳重、さらに毎日2食の飯付きです。アパートの名前は魔王城地下4階の厳重収容所【タルタヘイム】


ジメジメしていて変な匂いがします、、、



勇者を撲殺した後、俺はいかにもヤバそうなやつらが隣人のこの住まいに連行された。


勇者を殺したとはいえ、魔王城の最上階に誰にも気づかれることなく侵入し、あろうことか神聖な玉座にまで触れたのだ。当然と言えば当然だ。魔王は俺が連行される姿を何も言わず、ただ憐れみの視線を送っていた。


俺はこの後どうなるんだろう。処刑?だとしたら勇気を振り絞って駆け出した意味がない。もっとも、勇者を撲殺してしまった時点で計画は台無しだけど、、、


魔王軍でも俺の処遇については揉めているようだった。一日に何度も取り調べ室に連れていかれ、ありとあらゆることを聞かれた。嘘とか全部見抜いてきそうな目を持った魔族が相手だったから、全部そのまま話した。別世界の日本という国でぬくぬく育ち、いかついおじさんにこの魔王城に飛ばされて、間違って勇者を殴り殺した、と。


魔王軍が俺の言ったことを信じて居るかは分からないけど、勇者を殺したのだから魔界の英雄だという意見や、最初は魔王様を狙ったのだから危険だという予測が飛び交っているようだった。


うーん。


太陽の光にあたりたいっ!


こんなジメジメした場所でもう1週間ぐらいは過ごしてる。そろそろ体からキノコとか生えてきそうだもん。いや生まれた時から既にひとつ生えてるけど、そういう事じゃなくて。


というか神であろうおじさんはこの状況を天から見てたりするんだろうか。見てるんなら助けてくれよ、こんなことになったのはあんたのせいでもあるんだよ?


そんなことをぼやぼや思っていた時だ。


瞬き一瞬の間に鉄格子を挟んだ向こう側に魔王が現れた。足音も気配もなかった。おそらく魔法だろう。


「…ここはいつでも陰湿な場所で嫌になる。身体からキノコが生えてきそうだ」


魔王は静かにそう言った。魔王がここに来たのは俺が収容されてから初めてのことだった。


「珍しいですね、魔王様直々に来られるなんて」


「ああ、、君と少し話をしようと思ってな。私たちだけの会議では一向に話が進まないんだ。ここはうるさすぎる。少し出よう」


魔王はそう言うと俺の部屋の鍵を魔王で解錠した。すごい、そんなことも出来るのか。


━━━━━━━━━━━━━━


俺と魔王はタルタヘイムを出て城外に出た。やっと太陽を拝めるかと期待したが、空にはお月様が眠たそうに浮かんでいた。俺は夜の冷たい新鮮な空気を存分に吸い込む。


ああ、最高だ。なんか外でもちょっと変な匂いはするけど。


「私はザリア。魔界防衛の最前線であるバーナス大陸を統治する魔王だ」


気持ち悪いぐらい外の空気をすうはあしていると俺に魔王はそう名乗った。そういえば初めて名前を聞いた。魔王にも名前があるのだ。


「どうも、もうご存知かと思いますが、俺は佐々木アキです。この度は色々とすみませんでした」


「いいんだ、気にするな。実は今、私と君の2人だけという状態は誰にも言っていない。いわゆる密談だ」


ザリアはそう言うと、魔王には似つかわしくない柔和は笑みを浮かべた。


転生先の魔王がムキムキゴリラじゃなくて本当に良かったと、俺はその笑みを見て思った。

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