〈3話〉ラスボスとのご対面
人間として転生するからには、やはりラスボスは魔王ということになる。
その魔王が今、目の前で勇者と死闘を繰り広げていた。それぞれの仲間は2人の死闘を静観している。
あのクソじじい、転生座標とか考えて送れよ。
幸い戦闘の騒音と迫力で、俺が玉座裏に突如現れたことになど誰も気づいていない。ここからどうしよう。
神かどうかも怪しいおじさんからサングラスと煙草しか貰ってない俺には逃げることも出来なければ戦うことも出来ない。かと言ってこのまま隠れていてもいづれ見つかって殺される。
初っ端から詰んでるのでは?
落ち着け。とりあえずおじさんから貰ったセブンスターでも吸うか。
火がない。
煙草も別に好きじゃない。
きっっっつい!
どうすんのこれどうしたらいいのこれ、、、
、、、いや待て、勇者が勝てば良いんだ!勇者が魔王を討ち滅ぼした後で裏から出てきて捕虜だったとか適当に言って助けてもらおう。
最善策が浮かんだところで、先程から激しくぶつかりあっている勇者と魔王の死闘に注目する。
あれ?
あれれぇ?
勇者、負けそうじゃない?
この世界の魔王はムキムキゴリラという感じではなく、その知能と魔力量を使いこなして相手を撃つ知将タイプだった。対して勇者はいかにもな『勇者』って感じだ。眩しいほどの金髪を靡かせながらおそらくこの世界最強の剣であろう武器を魔王に何度も振りかざしている。
しかしその剣が魔王に届くことはない。魔王は魔力の幕で自身を守っている。勇者もそれはいづれ破れると踏んでいるようだけど、、勇者は負けるだろう。
魔王は全く疲れていない。今、魔王の背中を見ている俺には分かる。疲れというのは背中に出るのだと、俺は社会に出てから知った。社会人はみんな疲れた背中をしていた。大学生の気だるげな背中ではない、疲労が蓄積して凝り固まり、変な力が加わって小さく収縮してしまっている背中だ。魔王の背中にはそれが微塵も感じられない。このままやり続けていても、攻めを続けている勇者の体力が先に尽きるだろう。
それはまずい、俺の最善策は勇者が勝つことが前提なのだ。勇者が負けたら俺も一緒に打首確定じゃん。
どうにかできないもんかと思考を巡らせていた時、今までで最も激しい衝突音と爆風が起こった。おそらく勇者が最後の会心の一撃を魔王に振りかざしたのだろう。魔王城の最上階は爆風と土煙でほとんど見えなかったが、勇者と魔王の纏うそのオーラだけが微かに見え、砂塵の中で激しくぶつかり合っているのが分かった。さすがの魔王も自身に纏わせていた魔力の幕を前方に集中させて厚みをつけていた。
今しかない、と思った。
この砂塵と激しい衝突で、きっと今なら存在がバレていない俺なら、魔力の膜がほぼ無くなっている後ろを奇襲して魔王を殺れるかもしれない。
何かないか!武器なりそうなもの!
おや?
そんなところに立派な植木鉢があるじゃないですか。
玉座の隣にそれほど大きくは無いが頭にぶつけられれば相当なダメージが入りそうな植木鉢が置かれていた。殺せなくても、ダメージさえ稼げればそのまま勇者の剣が魔王を両断するかもしれない。
俺は心を落ち着かせて、深呼吸する。1度死んだ時、俺は通り魔を裏路地で食い止めることができなかった。だから今度こそ、人のために闘うんだ!
俺は植木鉢をそっと抱え、2人の元へ駆け出した。2人の放つオーラと迫力に五臓六腑が悲鳴をあげていたが、俺は強く重く1歩1歩足を進める。
待って、やばいまじでやばい。
このふたりのオーラ、この世界の一般人以下の俺に耐えれるわけなくね?
五臓六腑とかじゃないって、細胞全部がビビってるって。
でももう駆け出しだからにはここで止まるわけにはいかない。ここで止まったらそれこそみんなに見つかって殺される。
俺は目をつぶって無我夢中で2人に突っ込んだ。オーラが今までの比にならないくらいの強ささに達した時、そこに思い切り植木鉢を振りかざした。
植木鉢はバラバラに砕け散り、それと同時にオーラがひとつ急に弱くなった。
やったぞ!魔王を殴り殺してやった!
オーラで全身を切り裂かれたような感覚になりながら俺が目を開けると、
勇者が死んでいた。
ミスったあ。
勇者殴っちゃった、、、
俺がそのことを自覚した直後、砕け散った植木鉢から、そこに植えられていた植物が叫んだ。今まで俺が聞いたことのある中で間違いなく最大の叫び。これ知ってるぞ。
マンドラゴラだ。
鼓膜が破れて脳が揺れた。その瞬間、俺の意識はぶっ飛んで勇者の血溜まりの中に倒れ込んだ。
━━━━━━━━━━━━━━
・・・・・・〈これ誰?〉・・・
・・・〈わかんねえ、まあとりあえず治してやれよ〉・・・・・・
・・・〈めんどくさいんですけど、、、〉・・・
・・・・・・〈スンの実やるから〉
・・・・・・・・・〈ヒール〉・・・・・・
ん
なんだここ。
俺は何してたんだっけ?
確か転生して、魔王を殺ろうと思って飛び出したんだ、そこからの記憶がない、、、
飛び出してから、そんなに時間は経ってないだろう。せいぜい2分くらいだ。
ん、なんか、え、
、、、なんか
勇者死んでるんですけど、、、
━━━━━━━━━━━━━━
これが俺がプロローグに至るまでの流れである。
いや勇者のこと撲殺して記憶なくすのやばいって?
しょうがないじゃん。
植木鉢の中がマンドラゴラなことなんて、こっちの世界に来て30分も経過してない俺に分かるわけないじゃん?
めっちゃくちゃ叫んでたんだもん。
記憶も飛ぶよ。
もっとも、このまま思い出さない方が俺にとっては良かったのかもしれないけど、、、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます