〈2話〉佐々木アキ、新天地へ


「俺がお前をここに呼んだ」


サングラスをかけたおじさんが俺にハスキーな声でそう言った。


人相はだいぶ通説と異なるが、死んだ後にこんな変な空間に呼ばれるなんて絶対あれだ。



【異世界転生】



「待ってください。この展開はだいたいあれですよね、転生がどうとかって感じですよねどうせ」


「んあ?」


「言っときますけどね、転生するかどうかは別にどっちでも良いんですよ。でもなんで目の前にいるのがおじさんなんですか」


「あ?」


「あ?じゃないですよ。普通こういうのは麗しき女神様とかじゃないんですか?それがなんで、オールバックでサングラスかけたどこかの組長みたいなおじさんなんですか」


「お前、そんなに話すタイプだったっけ?」


俺は1度死によって色々投げやりになっていた分、いつもよりずっと口が回った。でも確かに、このおじさんも度々ならぬ理由があってこの役割を請け負っているのかもしれない。いきなり責め立てるのは失礼だった。


「すみません、少し言いすぎました」


「いやいいけど、急に早口で話すから、死んだショックでおかしくなったんじゃないかと思ったぞ」


「俺は本当はおしゃべりな方なんです。しゃべりまくり8とか大好きだ。それはそれとして、これって転生系ですよね?」


「まあ、そういうことだ。話が早くて助かる。転生先は人間界と魔界で絶賛戦争中だ。お前はそこに行くことになる」


「なんで俺が?」


「お前が死ぬ直前に願ったからだ。こんな結末はあんまりだと、どうかは次は楽しく意味のある生活をしたいと」


確かに最後に思い浮かぶ知り合いは少なすぎたけど。そうか、俺が願ったのか。


「でもなんで戦争中の世界に?俺楽しくて幸せな生活がしたいんですけど」


「わがまま言うなよ。転生にもルールがある。ひとつ、対象者は生を渇望した人間であること。ふたつ、転移先は大きく人口が増減している世界であること。このふたつが今お前が知りたいことの答えだろう」


おじさんはセブンスターの煙草に火をつけながら面倒くさそうに説明した。


なるほど、戦争中であれば人口は大きく変化する。まあ、もう一度記憶を持った状態で生き返れるなら我儘は言えないか。


でも煙草はやめてね?

雰囲気もクソもないからね?


「異論がなければもう飛ばすが、いいか?」


ん、ちょっと待て。


「何かこう、転生する時に超最強な武器とか能力とかそういうのあったりとかは?」


「んあ?ああ」


おいなんだそれ、まさか何もないのか。だとしたら赤ちゃんより役に立たない存在になっちゃうぞ。


おじさんはおでこをぽりぽりかきながら俺に近づいてきた。なんだちゃんとあるじゃないか。


「ほら、選別だ。結構良いもんだから、無くすなよ」


おじさんはそう言って自分がかけていたサングラスを俺の頭にかけた。


は?


「なんだ不満か?じゃあこれもやる。特別だぞ」


おじさんはセブンスターのボックスを俺の胸ポケットにねじ込んだ。


「は?」


「では、あーなんだっけ、そうだ。2度目の人生に大いなる福があらんことを?あなたには神の御加護がついています?だ」


せめてそこは覚えておこうよ?


おじさんがそう言うと、俺の周りに複雑な文様が刻まれた魔法陣が現れる。


おいちょっと待ってくれ、これから海辺にバカンスしに行くわけじゃないんだぞ。


「せめて、せめて最弱スキルをくださいぃぃ」


「贅沢を言うな。今は煙草の1箱も高いんだぞ」


そういう問題じゃねえよ?


「良い旅を」


おじさんは俺に向かってぎこちないウインクを飛ばす。同時に魔法陣が起動する。


「待て待てこんなんじゃすぐ死んじゃ、、、」


眩いほどの光が魔法陣に走り、そこで俺の意識もヒューズが飛ぶみたいにプツリと切れる。


━━━━━━━━━━━━━━


次に意識が戻った時、俺は外出用の一張羅と季節外れのサングラス、そして胸ポケットに潰れたセブンスターのボックスを携えて魔王城の最上階、魔王の玉座の裏側に突っ立っていた。




どこに転移させてんだよクソじじい、、、

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