第5話♧デート1

 私は二年生に進級し、6月15日を迎えた。

 私が不破悠歌にレッスンと称された何かを施されてから一年が経とうとしていた。

 私が起床すると、既にSNSのアプリの通知がスマホにあった。

『穂乃実ちゃん、もう起きた?今日は一緒に楽しもうね!!』

 不破からのメッセージだ。

 腹が鳴らない程度の朝食を腹の中に収め、テレビから流れるニュースを観ていた。

 8時前に姉がリビングに姿を現し、眠たそうに眼を擦りながら挨拶をした。

「おはよう、ホノぅー。今日は悠歌と出掛けるんだっけ?なんかされたら、遠慮なく意思表示して拒みなよ」

「おはよう、お姉ちゃん。そうだよ……うん」

 姉は冷蔵庫の前でグラスに注いだ牛乳を飲み、クロワッサンを口に運んでいた。

「ホノ、クラスに慣れた?いじめられては——」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ありがと」

「そう?なら……良いんだけど」

 姉ははにかんで、寝癖のついた髪をガシガシと掻いて、顔を逸らした。

 キッチンから出てきた姉はソファーに片肘を突き寝転がってテレビに顔を向けた。


 8時50分にインターフォンが鳴り、ダイニングチェアから腰を上げ、玄関へと駆けた私。

 玄関扉を開けると、不破悠歌が立っていた。

「おはよう、悠歌。早いですね」

「おはよ、穂乃実ちゃん。ま、待たせちゃ……悪い、でしょ。もう出られる?」

「少し待って貰えますか?3分は掛からないので……」

「良いよ。此処で待ってる」

「はい」

 私は玄関扉を閉め、支度を済ませ、玄関へと向かった。

「ホノ〜気をつけるのよー!」

「はぁ〜いっ、行ってきますお姉ちゃん!」

 私は姉に返事をして、玄関扉を開ける。

「今日も可愛いね、穂乃実ちゃん。さっ、行きましょ!」

「はい。ありがとうございます。悠歌もその……似合ってて可愛いです」

「あ、ありがと……穂乃実ちゃん」

 私が彼女を褒めると、彼女は口許を片手で覆い、照れた。

 私は不破悠歌に出逢ってから、初めて彼女が照れた姿を見た。

 私はお世辞ではなく、本当に彼女が可愛く見える。

 私は差し出された彼女の手を取り、五指を彼女の五指に絡め、握る。

 私は彼女の掌から伝わる体温が心地好く、口許が緩んだ。


 私と不破はバスに乗車し、ショッピングモールへと運ばれる。

 バスから降りた私たちは映画館へと急いだ。

 観やすい座席を確保するために、駆ける私たち。


 私は昨日の金曜日に、不破から唐突にデートをしようと誘われ、迷うことなく頷いた。

 現在では、彼女と居ることが心地好かった。カフェには何度も彼女に連れられ、奢ってもらっていたがデートという外出は今日が初めてだ。


 12時前に映画を観おえた私たちはフードコートで昼食を摂ることにした。

 注文した料理が出来るまで、映画の感想を言いあった私たち。

 不破は観た映画のパンフレットを開きながら昂揚した様子で感想を述べた。


 私はヒレカツ定食を、彼女は醤油ラーメンと餃子とライスを食べる。

「ふぅ〜食べた食べた。この後は何処まわる?」

「本屋に行きたいです……あと、服を見たいです。その……悠歌に私が似合いそうなのを、選んでほ、しくて。コスメも悠歌にどういうのが良いかを——」

「わかった、穂乃実ちゃん。私が穂乃実ちゃんをもっと可愛くなれるように見繕ってあげる。コスメも任せなさい!」

 彼女はそう言いながら片腕の拳で胸を叩き、胸を張った。

「ありがと、悠歌さっ……悠歌」

「大したことじゃないわ。さぁ、行きましょ」

「うんっ!」

 私たちは食べ終え、トレーを返却してから、廻り始めた。

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