第一章 三人の決意 第二話 バルボの転落
数日が過ぎ、エルンの母は深刻な表情で話し始めた。
「エルン、バルボの家族が仕事を失ったらしいのよ。」
エルンは驚いた。
「本当に?それじゃあ、バルボはどうするんだろう?」
父はゆっくりと頷いた。
「バルボのご両親は薬草や野菜なんかを売っていただろう。最近の経済状況が厳しくなって、店を閉めざるを得なかったそうだ。彼も勉強を疎かにしてきたからね。お手伝い程度なら雇ってもらえるだろうけど、家族分のお給料をもらうのは難しいだろう。」
エルンは心の中で何かが揺れ動くのを感じた。
「そんなことがあったのか……」
エルンはつぶやいた。
「バルボも大変なんだね。」
父は静かに言った。
「そうだね。人の状況は変わるものだ。彼がどんな立場になっても、優しさを持ち続けることが大切だよ。」
夕食後、エルンは手帳の件を話すため父の部屋を訪れた。
「実はあの日バルボが…」
父にそう伝えた。
父はエルンの言葉を黙って聞き、眉をひそめながらその話を受け止めていた。
話が終わると、父はゆっくりと息を吐いた。
「お父さんが話をつけてこようか?バルボのご両親にちゃんと話して、どうにかしてあげることもできるかもしれない。」
エルンはその提案に少し驚いた。
「でも、そんなことをしたら、バルボは両親からすごく怒られると思う。彼はもう十分苦しんでいるのに。」
エルンの心の中で迷いが深まった。
自分の気持ちと、バルボの事情が交錯して、どちらを選ぶべきか分からなくなった。
すると、父は優しく微笑みながら言った。
「あの手帳なら、私は気にしていないよ。大事なのはエルンの心だ。手帳はまた作り直せる。バルボのことを思いやる気持ちを大切にしなさい。」
その言葉を聞いて、エルンは心が少し軽くなった。
彼は父の言葉を胸に刻み、バルボを助ける道を選ぶことに決めた。
バルボの家族の噂は村中を飛び回り、ついにはエルンをいじめていたバルボが、今度は自分がいじめられる立場になっていた。
バルボは以前のような威張った態度を取ることができなくなり、子供たちから無視され、さらには嫌がらせを受けるようになった。
エルンはそんなバルボを遠くから見て、少し同情の気持ちを抱いていた。
数日後、バルボはエルンの前に現れた。
以前のような威張った態度はなく、彼の目には涙が浮かんでいた。
「エルン……ごめん。あの時、手帳を川に投げてしまって……本当に、悪かった。」
バルボは言葉を絞り出すように謝罪した。
エルンはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「手帳はもう元には戻らないけど、僕は怒ってないよ。君も苦しんでるんだろ?」
バルボはうなずき、濡れてボロボロになった手帳を取り出した。
「これ、見つけたんだ。でも、もう読むことができない。」
エルンはその手帳を見つめた。
父から受け継いだ夢の象徴が、こんなにも傷んでしまったことに胸が痛んだ。
それでも、彼は微笑んだ。
「見つけてくれてありがとう。バルボ」
エルンがバルボからの謝罪を受け入れた後、しばらくの間、二人は無言で立ち尽くしていた。
すると、バルボが口を開いた。
「エルン……僕、一緒に旅に出たい。君の冒険に、ぜひ参加させてほしい。」
その言葉を聞いたエルンは驚いた。
「本当に?でも、バルボの家族は遠くに引っ越すんじゃないの?」
仕事を失ってしまったバルボ一家は田舎へ引っ越してまた一からやり直す予定だった。
バルボはうなずき、少し迷いながらも続けた。
「うん、引っ越すことになってる。でも、今はそのことを考えられない。君が許してくれたから、心がすごく温かくなったんだ。だから、君のそばにいたい。」
エルンはその言葉に心を打たれたが、突然のことで驚いていた。
「そうか……でも、今日はもう解散にしよう。」
その後、二人は別れた。バルボは家に帰ると、両親にエルンとの冒険に参加したいと伝えた。
「僕はエルンと一緒に旅をしたいんだ!」と、言い切った。
両親は最初は驚き、何度も反対した。
「無理よそんなこと。もう引っ越しの準備も始めてるし。」
しかし、バルボは心の中で後悔していたことを思い出し、言った。
「僕はエルンにひどいことをした。それを許してくれた優しさに感謝している。恩を返したいんだ。」
両親はその決意を聞いて、しばらく考え込んだが、最終的には渋々承諾した。
「分かったわ、でも無理はしないでね。」
バルボは嬉しさで胸がいっぱいになり、その後、両親はエルンの家を訪れた。
バルボの両親はエルンの父に向かって頭を下げ、手帳の件を謝罪した。
「本当に申し訳ありませんでした。バルボがあの手帳を壊してしまったこと、心からお詫び申し上げます。」
エルンの父は穏やかな表情で応じた。
「大丈夫ですよ。子どもたちのことは彼ら自身に任せましょう。」
この瞬間、エルンとバルボは顔を見合わせ、ニコッと笑って見せた。
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