第12話

小刻みに震えているうちの魔王は置いといて、彼女の腋に手を入れて引きずり出す。



 ずい所ずい所で枝が引っかかったようで、その度に聞こえる彼女の小さな呻き声に、つい息を呑んでしまった。



「あ、あの、ありがとうございました!」



 木の中から、雑草が流れる草むらに彼女を立たせれば、額は赤くなり、太ももやふくらはぎには所々に切り傷が、制服も擦った様な傷がついてしまっている。



 にも関わらず、困ったような笑顔を向ける彼女の姿は、美しかった。



「見たことない制服だね。悪いけど、何か武器を隠し持ってないか調べさせてもらうよ?」


「···え?」



 後ろの襟元を確認しようと、彼女のウェーブがかる髪の毛の中に手を滑らせ、うなじの方に手を回す。



 ちょっとからかってやろうと思い、うなじを指でツーと滑らせてやると、少し肩を上げ、ふと僕から目を反らした彼女。その顔は程よく赤い。



 こういうことに慣れてそうな雰囲気なのに、意外と面白い女なのかも。



 でも彼女の肩越しに、黒いオーラを放つ魔王の姿が見えて、ゆらりと立ち上がったと同時に光るその目が、僕を瞬時にひるませた。



「お"い"、触んな···」


「···っえ?」


「どけよ」



 あっという間に僕の手を後ろから払った藍。



「武器なんて持ってるわけねえだろ。隠すとこなんてどこにあんだよ。」


「···いや、だって。じゃあどうするのこの子。さっさと追い出す?」



 俯いていた彼女が、そっと藍の方を見る。



「あ、あの、ごめんなさい。私···、お邪魔なようなので帰りますね?」



 藍が一瞬、目を見開き、大きく鼻から息を吸い込んで、僕が「は?」と疑問の顔を向ければ、すぐに眉間にしわを寄せ睨みつける藍の顔に戻った。



 は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る