第11話

女神って、え?!女神って何っ···?


 自由の女神みたいな顔ってこと?!藍が人見て女神なんて言う事あるの?!



「痛っ、あ、んっ」



 藍が勢いよく髪の毛を引きすぎたのか、彼女の唇から艶のある声が漏れる。



 すると藍が掴んでいた髪の毛をぱっと離し、その離された反動で、彼女が額を地面に打ちつけた。



 藍は掴んでいた手を見て、なぜか小刻みに震え息を上げ始めた。



「···いい匂い···」

「はっ?!!?」



 え?今なんて??


 そっちこそ鼻の穴死んでんじゃない??



 柿の葉の中に尻餅をつき、さっき彼女の髪を掴んでいた手をじーっと穴が開くほど見つめている藍。



 僕は何を見せられているのか。いや知らない知らない、こんな動揺を露にする藍なんて僕は知らないし。

 


「いや、え?···で?!藍、どうするのその子。」

「ああ"っ?ハア、ハア。」



 明らかに様子がおかしい。何その動悸に息切れ。



 いつもの魔王の姿ではない姿に、僕自身もどうすればいいのかわからない。


 うちの魔王の判断をあおごうと何度か話しかけてみるも、全てハアハアで返される。




 恐怖。



 藍がどんなにむごい殴り方をしていても、こんな恐怖は抱いたことがない。



 そしてその前で、うつ伏せにされたままの彼女があまりにも惨めだ。



 何ともいえない、このシュールな光景にいたたまれなくなった僕は、なんと彼女に同情してしまった。



 この僕が、この腹黒と呼ばれるこの僕が、得体の知れない女に同情してしまうなんて─────




「わかった!とりあえず助けるから!ちょっと待ってて。」

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