三 本人が荷物

 十月四日、月曜日。

「堀田さん。電話ですみません。実は、先日、仕入れの帰りに、たまたまお宅の正俊さんと新幹線の席が隣りなって、いろいろありがとうございました」

 原田伸子は長野駅に近い繁華街のJewelry Pandoraから旧市街中央南部の自宅とおなじ地区内にある堀田運送へ電話した。

「原田さんのこと、正俊から聞いてます。いろいろ迷惑をかけませんでしたか?なにせ、あまり他人を気にせず、我が道を行くの性格なもんですから」

 正俊の父正信の歯切れの良い声が受話器から聞える。

「とても気さくな良い方ですね」

 原田伸子は新幹線のあのひとときで正俊の人柄に惹かれた。同世代なら放っては置かないだろうと思ったくらい、いい男なのだ。


「原田さんが何か運ぶ物があったらしく、正俊が直々に指名を受けた、と言ってました。

 もしかしたら、正俊本人が荷物なのではありませんか?」

 正信は、おなじ地区内に住む面倒見のよい原田伸子の性格を知っている。聞こえはいいが要するにお節介やきなのだ。

「堀田さんに下手な細工は無用ね。

 正俊さんをください。と言っても私の養子にするわけではありません。

 実は・・・」

 原田伸子は正信に説明した。


「この話はそちらへうかがって直接話すのが筋でしょうが、私がうかがったら、正俊さんが警戒なさるでしょう。

 今日、正俊さんはお仕事ですか?」

「今、配達へ出てます。夕刻まで帰宅しません。話していてもだいじょうぶですよ。

 説明はわかりました。森田園はうちの得意先です。あそこならまちがいはないですね。

 でも、森田さんはそんなことを一言も話さなかったから、私は何も知りませんでした。

 わかりました。私は何も知らないことにしておきます。妻にも話しません。

 原田さんにおまかせしますので、よろしくお願いします」

「休日の配達もできますよね?」

「ええ、もちろんです。では休日の時ですね?」

「はい、森田さんと日程を合せ、来週の木曜に連絡します。

 予定は次の日曜です」

「では、楽しみにしてます」

 正信は通話を切った。森田園に娘が一人いた。最近見ていないので、結婚して新婚の間は親とは別居しているものと思っていた。

 あの娘、どことなく妻の昌代の若いときに似ている。僕が昌代に一目惚れしたように、正俊も森田の娘に一目惚れするかも知れない・・・。

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