切っても斬れぬカネと飯

釣ール

痛くて無力な感じ方

 今の家は住みにくい。

 いや、引っ越した時からそうか。



 物価高騰ぶっかこうとうで資本主義なんて誰のためにやらされているのだろうか?



 好きな相手といてもいつかははなれてしまう。

 どちらにも原因があるから。




 4、5年経てば平気なふりはえんじられる。




 ただえとかわきはよく食べる自分にとって貧乏人びんぼうにん相性あいしょうが悪かった。




 夜にバイク乗りとトラック野郎から「徘徊はいかいじじい」といじわるを言われれば「あなたたちの年齢を倍にしたらこうなるかも?」だといじわるのお返しをしながら下品な指の動かし方で乗り切っている。




 もはや立派りっぱなコミュニケーションだ。

 とりつくろった上品じょうひんなやり取りよりも生きやすく感じるほどに負の感情も時と場合によるのかもしれない。




 そこでかわいたのどをうるおすために百円玉をさがす。



 値段ねだんが上がった現在ではコンビニ以外は百三十ひゃくさんじゅう円まで余分に節約しながら暮らしている。




 それなのに財布には1円玉すら3枚しかなかった。



 今が秋だからよかったものの、残暑がきびしいからかかわきはなおせない。



 つばすらなくなっていくなかで、通る人間の前では平気な顔をして歩き回っている。




 徘徊はいかいと言われても散歩だから仕方がない。

 いつも歳が変わらない誰かがスポーツマンシップにのっとりランニングをしていたら目のかたきにしそうなのでいつもズラして歩いている。



 堂々と生きることがこんなにも難しいのと食べることと飲むことがここまで金がいるとなると、たまに歩みを止めたくなる。




 シャボン玉のように浮かぶ景色けしきは誰かのかけら。




 自分の本当にしたいことを否定するために用意された鏡という名の要らない他者がみせる幻影げんえい




 むかし子供の頃、街で迷子になったときは緊急事態きんきゅうじたいだったのに冒険をしていたかのような錯覚さっかくまであったほど、気がした。




 悲しいかな。

 いまや天竺てんじくを目指す三蔵法師さんぞうほうし一行いっこう



 その心は!



 全て誰かの手のひらの上。



 はや歩きして逃げている。



 カネと労働ろうどうと老いと世情せじょうと。



 迷ってみたい。

 そして自分の力でぬけだしたい。



 カネ、

 欲望、

 そして、しょく



 死んでるみたいじゃないか。

 もっと分かりやすくいえばゾンビ。




 ほしかった自由も自分の自由じゃなくて借り物のあこがれ。



 切れない関係も切ってきたのに。

 たまらないカネと生きる限り減り続ける腹はなんでこんなにも残酷な一ヶ月をつきつけたのだろうか。




 節約すればなんて言わないで。

 今の時代、それすらも難しい。



 多くのきれいにみえる欲望よくぼうが見せつけてくるかぎり、今日もバイクとトラック乗りとともに悪口を言い合う。



 どちらも助けてはいないはずなのに、不満をもった同士と考えると今日も腹を空かせられる。



 うそ。

 結局また強制きょうせいされて無の日常がやってくる。

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切っても斬れぬカネと飯 釣ール @pixixy1O

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