第42話:プレ鯖

「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい。ゆっくり楽しんでくるといいよ」


 その日、僕は息子アベニアを連れて、プレ鯖へ転移ワープした。

 もう1人の息子イスポアはNPCなので、サーバーの移動はできないらしい。

 2人ででかけるところを見せるのは可哀想なので、ルウに頼んで眠らせてもらった。


 プレ鯖は「プレイヤー交流サーバー」のことで、メインクエストをクリアしたプレイヤーが行ける場所。

 ケイがメインクエストをクリアしたので、息子を連れて会う約束をしていた。

 アベニアは僕が産んだ子、イスポアは水の大天使ジブリエルの転生者。

 2人は乳兄弟として育ち、今も一緒に暮らしている。



「わぁ! あれ美味しそう!」

「ほんとだ、買ってみようか」

「イースにも買ってあげてね」

「もちろん」


 いろんな露店が並ぶ中央広場。

 初めて来る僕も息子も珍しい食べ物にワクワクしている。

 こんなときでもお留守番の兄弟のことも考えるアベニア偉い。


「これ4つ下さい」

「あいよっ」


 露店で最初に買ったのは、ドライフルーツやナッツがたっぷり入った大きめクッキー。

 箱に入れてもらい、プレイヤーが使える異空間倉庫ストレージに収納した。

 帰ったら紅茶を淹れて、みんなで食べよう。



「ヒロ!」


 息子と仲良く露店巡りをした後、噴水近くのベンチで座っていたら、声をかけられた。

 プレ鯖で僕の名前を呼ぶとしたら、もう誰か明らかだ。


「ケイ……ぶはっ! 容姿選択それ?!」

「どうだ? かわいいだろ?」


 振り返って見た僕は吹き出してしまった。

 だって、ケイが選んだ容姿、猫耳と尻尾が付いた獣人の少年だったから。

 黒髪・黒耳・黒尻尾、かわいいけどケイのイメージが無さ過ぎて笑える!


「ママ~、この猫ちゃんだぁれ?」


 僕が腹を抱えて爆笑していたら、アベニアがキョトンとしてケイを見上げながら聞いてくる。

 なんて説明しようか?

 ここに来る前から一応考えておいた。

 猫ちゃん容姿が想定外で、笑い過ぎて忘れるところだったけど!


「この猫ちゃんはね、アビーのもうひとりのパパだよ」

「こんにちはアビー、ずっと逢いたかったよ」

「猫ちゃんが……もうひとりのパパ?」


 僕が説明して、ケイが挨拶する。

 アベニアは困惑しながらケイを見上げた。


 生命の木セフィロトの根元で受胎したとき、精を注いだルウにはケイが憑依していた。

 だからアベニアの父はルウであり、ケイでもあると僕は思う。


「アビー、抱っこしてもいいかい?」

「大きい猫ちゃん、重くて抱っこできない」

「あ~違う違う、俺が君を抱っこするんだよ」


 ケイとアベニアの会話を聞いて、また吹きそうになる。

 黒猫獣人ケイがもうひとりのハパだと理解してもらうまで、もう少しかかるかもしれない。

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