第43話:家族

 プレ鯖の都市【エデン】にあるアンティークなカフェ。

 ここの個室は、特定のアイテムを持つ2人だけが入室可能な部屋だ。

 僕とケイは【天使と珈琲を】の開発スタッフから貰っていた指輪型のサーバー共有アイテムを使い、カフェの個室に入室した。


 指輪は、ゲーム内に閉じ込められたケイの救出にも役立ったアイテム。

 ケイがプレイヤーとしてログインするようになった今は、天界などの個人サーバーを共有することはできない。

 代わりに、このカフェのようなプレイヤー共有サーバー内にあるプライベートエリアを使うことができた。

 それで僕たちは、ゲーム内で他プレイヤーの目を気にすることなく話したいときに使うことにしたんだ。



「アベニア、ありがとう。君がママの胎内なかに宿ってくれたから、俺は現実世界に帰れたんだよ」

「そっかぁ。ボク、ケイパパを助けるために生まれてきたんだね」


 コーヒーを飲みながら、ケイはアベニアに真実を打ち明けた。

 話を聞いたアベニアは嬉しそうに微笑む。

 パパが2人いると教えてから、アベニアはルウを「ルウパパ」、ケイを「ケイパパ」と呼ぶようになった。


 アベニアは胎児の頃に重要な役割を担ったと聞き、驚いてはいたけど。

 天使たちは誰かを助けたり導いたりすることに「幸せ」を感じる。

 アベニアは天使と人間のハーフだけど、考え方は天使に近かった。


「あと、これはお土産。ルウとイスポアにも食べさせてやってくれ」

「ありがとう! カカオファミリアのチョコレートだね。後で買いに行こうと思ってたから嬉しい」

「ルウの分はビターにしてある。他はミルクチョコだよ」

「さすが、分かってるね」


 ケイがくれたお土産は、エデンで人気の洋菓子専門店【カカオファミリア】の箱入りチョコレート。

 公式ガイドに「オススメの名店」なんて書いてあるよ。

 カカオファミリアは、現実世界のゴディバみたいなものだと言ったら分かりやすいかな。

 ケイはカカオ70%のビターチョコが好きで、ケイをモデルに作られたルウもビターチョコ好きだ。


「それにしても、ケイが大団円クリア成功するとはビックリしたよ」

「メインクエストをクリアすることしか考えてなくて、気が付いたらそうなってたんだけどな」


 僕は話題をケイのメインクエストクリアに向ける。

 ケイは最高難易度の【大団円】でメインクエストをクリアした。

 ラスボスはインビディア、ルウ魔王化せず生存、結ばれるキャラ無し、全攻略対象の好感度を3以上4未満(恋愛感情無し)で止めたという。

 それがどれだけ難しいかは、先にプレイしていた僕にはよく分かる。


「もしも僕にそれができていたら、サキを亡くさずに済んだのにね」

「だが誰とも結ばれないから、子供を宿すことはできないぞ」

「そっか、そっちの問題があるよね」


 僕が大団円を達成していたら、アベニアは誕生しないし、ケイも現実世界へ帰れない。

 ケイに言われて、僕は後悔することをやめた。

 僕は今のこの結果が、自分にできる最良だと思うことにするよ。

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