第32話:魔王の城と戦闘準備
【天使と珈琲を】の魔王城は、メインシナリオ前半は魔界に存在する。
シナリオ後半、四天王が全て倒されると、魔王城は魔界から人界へ転移して、ラスボスイベントが始まる。
「魔王城が人界に転移してきました」
見回りから帰ってきた天使たちが言う。
フェイオを倒したことで、中ボスイベントは全て完了している。
この後に待つのは、魔王との闘いだ。
「ヒロ、死なないからって無茶はするなよ」
魔王戦に参加できないルウが何度も言ってくる。
僕が一度仮死状態になってサキに蘇生されているのを視て以来、ルウはすっかり心配性になってしまった。
ケイを大天使にしたのも、自分が行けないから見張り役を任せたんだろう。
「俺が見張っておくから大丈夫だ」
一緒に討伐戦に出るケイがそう答える。
でも、僕はこのゲームをクリアするために、無茶はしてもしょうがないと思っている。
メインシナリオをクリアして、ケイを現実世界に連れ戻す。
僕が目指すことは、ただそれだけだ。
◇◆◇◆◇
「勇者よ、其方に聖剣を授けよう。神の代行者として、魔王を打ち滅ぼしなさい」
天界の神殿最奥、神の間。
僕は神様から聖剣を授かった。
純粋な光の力を宿す、柄の部分に白い羽根と金の光が描かれた剣。
刀身は銀色に輝き、天界の文字が刻まれている。
【光は汝と共に在り】
その剣を受け取った時に、僕は覚悟を決めた。
天使としての名を捨てて「シャイターン」と名乗る彼と戦う覚悟を。
魔王化プログラムが実行されると、元の人格は失われる。
彼はかつて天使だったことは覚えていても、友情や愛情は感じなくなっている。
僕を名前ではなく「勇者」と呼んでいたから、敵対者として認識したんだろう。
「まさかサキが魔王になっちまうとは……」
剣の稽古を終えた後、フーッと溜息をついてミカが呟く。
魔王討伐メンバーの1人である彼は、僕と共に近接火力として戦うことになった。
「だが、堕ちてしまったのなら、戦うしかない。俺は攻撃の要だからな」
「僕も覚悟はできているよ。迷っていたら勝てる相手じゃないし」
「そうだな。水の力をもつあいつには火力が落ちるが、全力で絆スキルをブッ放してくれ」
「うん」
前衛の僕たちが迷っているわけにはいかない。
ミカも僕も、魔王戦に備えて鍛錬に励んだ。
「サキはもういない。あれはサキの身体を乗っ取った悪魔だ」
魔王シャイターンを見た後から、ファーはそう言うようになった。
彼は後方火力として魔王討伐メンバーに加わる。
「次に会ったら迷わず弓を引くからね」
ファーも躊躇いを捨てた。
魔王を倒さなければ、人界もサキも救えないと彼は言う。
「魔王がサキのスキルを継承しているとしたら、盾は無意味かな」
「
サキは装備破壊の特殊スキルを僕に教えた師匠だ。
盾スキルは解除されてしまう可能性が高かった。
「魔王が装備解除の使い手なら、素手でも使えるスキルが必要だな」
ウリは冷静に自分の戦い方を研究している。
彼も魔王討伐メンバーだ。
素手でも使えるといえば、絆スキルの【大地の波動】があるけど、ウリはそれ以外にも素手で使える身体強化系スキルを持っている。
「ヒロ、油断して脱がされるなよ」
「う、うん」
最近になって聞いたんだけど、ウリは過去にサキと模擬戦をして、全装備解除を食らったらしい。
全装備解除は天使たちに恐れられるスキルで、全ての装備がはずされてしまう。
盾などの防具や武器だけでなく、衣服さえも脱がせてしまうという。
社会的ダメージが大きいので、天使長に多用禁止令を出されたのだとか。
「サキには何度も裸を見られてるから今更だけど、他の魔族に見られるのは嫌だな」
不覚にもフェイオに全裸にされた僕としては、全装備解除は食らいたくない。
魔王がどこまでサキの能力を継承しているのかは分からないけど、警戒はしておこう。
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