第15話:リベンジ

 ルウとのハッピーエンドを迎えるには、四大天使が健在でなければならない。

 天界と魔界の勢力がほぼ同じで、人界は光と闇がバランス良く存在する場所であることも条件になっている。

 それを邪魔しにくるのが、ディアモたち四天王だ。

 正規シナリオよりもかなり早く登場した黒炎のディアモは、自らの対極にある炎の大天使を抹殺しようとした。

 僕から思わぬ反撃を受けてミカを殺しそこねた彼は、きっとまた襲ってくるだろう。



「襲われると分かっていても、魔物の討伐をサボるわけにはいかないからな」


 大剣を背負った赤毛の大天使は、そう言うと白い翼を広げて飛び立った。

 飛び立つ天使たちの後に、天馬に乗った僕も続く。

 前回の遠征時は弓を背負っていた僕は、今回は盾を背負っている。


 ディアモがいつどこで仕掛けてくるか分からない。

 正規ルートなら魔物狩りの最中だけど。

 ゲーム設定と異なるタイミングで現れた中ボスは、行動が予測できない。

 だから天界を出る前からスキルを発動しておいた。

 

 盾スキル・範囲型:風の防壁ウィンドバリア


 ウリから教わった最上位タイプの盾スキル。

 物理・魔法どちらの攻撃にも対応できて、受け流すように防ぐタイプの防壁で複数の味方を包む。



 魔物狩りの森に入る前に、敵は仕掛けてきた。

 突然飛んできた黒炎球は、ミカを狙っている。

 不意打ちで倒すつもりのようだけど、そうはさせない。

 防壁が黒い炎の球体をスルリと受け流してみんなを護った。


「面倒な奴め。前よりは警戒してきたか」


 空中に現れたディアモが僕を睨む。

 僕はディアモを睨み返しながら、次のスキルを起動した。


 盾スキル・単体型:自動反射オートリフレクト


 以前使った全力反射フルリフレクトに似たバフスキルで、自分専用の全力反射とは違い、仲間にかけてあげられる。

 かける相手はもちろんミカだ。


『バフOK』


 バフスキルは目視できないようにしているので、ミカには念話で伝える。

 ミカは背負っていた大剣を抜き放つと同時に、ディアモに向かって攻撃に出た。


「こないだのお返しだ! おらっ!」

「死にぞこないのお返しなんぞ食らうか!」


 真紅の炎を纏う天使と、漆黒の炎を纏う魔族がぶつかる。

 ディアモがサッと離れて黒炎球を放った。

 ミカにかけてある自動反射オートリフレクトが作動し、魔法攻撃はそのままディアモに返された。

 しかし、ディアモは片手で受け止めてそのまま吸収している。

 反射だけではダメージは通らないらしい。


「貴様を先に片付けた方が良さそうだな!」


 ディアモの矛先が僕に変わった。


 どうぞどうぞ。好きなだけ攻撃すればいいよ。


 僕は天使たちを巻き込まないように離れて盾を構えた。

 天馬にはミカと同じ自動反射オートリフレクトをかけてあるから、魔法は食らわない。

 もっとスキルレベルが上がれば味方全員にかけられるけど、今は3人までだ。


 しかし、ディアモは僕に切りつけず、直前でフイッと避けてしまった。

 魔法も仕掛けてこない。

 あれ? って思った直後、僕は突き飛ばされて落馬した。

 ここは森の上空、地面は遥か下だ。


「ヒロ!」


 ミカが叫ぶ声が聞こえる。


 飛べない僕は森へと落下した。

 バキバキと木の枝を折りながら落ちて、背中から地面に叩きつけられた衝撃で息が詰まる。

 落下でのダメージは反射も反撃も無い、僕が痛いだけだ。

 根性値が高いおかげで気絶はしなかったけど、激痛で身体が動かない。

 仰向けに横たわったまま目を閉じていると、誰かの気配がした。


「生きてるか?! 今治してやるから!」


 声がしたので薄目を開けて見ると、ミカの顔が間近にあった。

 全身打撲+骨折してるから動かさない方がいいと思ったらしく、ミカは僕を抱き起さずに地面に横たわらせたまま唇を重ねて治癒の力を使ってくれた。

 回復の力を込めたぬくもりが、唇から全身に広がって痛みが消えていく。


 ミカがここにいるってことは、ディアモは……?


 と思って空を見れば、ディアモが超特大の黒炎球を放つ直前だ。

 多分、僕が意識を失ってバフが解除されたと思っているんだろう。


 ミカにかけたバフは解けてない。

 でも反射効果だけではディアモにダメージが通らない。

 ここは試しに別の盾スキルを使ってみるか。


 盾スキル・特殊:身代わりの反撃サクリファイスアタック


 僕はミカの分もダメージを受け、不屈の反撃と合わせてディアモにダメージ返しを試みた。

 せっかく治してもらったけど、またズダボロだよ。

 でも、その甲斐はあったな。


「グァァァ!」


 2人分の倍返しの光ダメージをもろに食らい、ディアモが悶絶している。

 その身体は白い光球に飲み込まれてしまった。

 助けを求めるように片手が球体の外に突き出されたものの、燃え尽きた紙のように崩れて消え去っていく。


「お前は本当に無茶ばかりする奴だな」


 二度目の治療を済ませた後、ミカはそう言って苦笑した。

 骨折やら打ち身やらでボロボロになって、治ったと思ったら今度は大火傷だし。

 前回のミカより酷いかも。

 そういえば、ミカは黒炎球に飲み込まれて心肺停止になったけど、火傷はしてなかったな。

 確か、炎の適正値MAXってガイドブックに載っていた。

 以前のミカがダメージを受けたのは、ディアモの闇の力によるものだ。



 ディアモが消滅したのを見て、魔物狩りの天使たちが森へ降りてくる。

 僕はルウに心配かけたくないので、みんなにお願いしてみた。


「みんな、僕が怪我したことは天使長には内緒にして下さい」

「それは無理だな」

「既に知られているぞ」

「えっ?!」

「ヒロ、お前が乗ってきた天馬、天使長の召喚獣だぞ」

「そ、そうなの……?」


 どうやらもうバレているようだ。

 僕が目を向けると、天馬はヒヒンと鳴いて肯定した。

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