第16話:召喚獣

 神々しい白い毛並みに、空色の宝石みたいな優しい瞳、白鳥のように大きな翼で天駆ける駿馬。

 僕を乗せてくれていた天馬が、ルウの召喚獣だったとは。

 全然気付かなかったよ。

 天使長は気軽に外出できないから、僕が無茶しないか見張り役につけたんだな。


 召喚獣は術者のセンスで様々な姿のものが生み出される。

 本物の天馬そっくりに作られた召喚獣は、既に何度か本物を見ている僕が見分けつかないくらいの完成度だ。

 初陣で乗った天馬と並べて見たとしても、多分僕にはどっちが召喚獣か分からないかもしれない。


 ……それはいいとして。


 召喚獣って、その目で見たものを術者に送ることができるんだよね。

 この天馬が見たものは、ルウに送られていた?

 例えて言うなら、監視カメラの映像をリアルタイムで見るようなものだろうか?

 つまり、ディアモ戦の一部始終を見られてた?

 突き飛ばされて落ちたところ、全部見られてたのか。

 ルウが見てるってことは、情報を共有するケイも見てるよね?


「うわぁ……油断して落馬するなんてカッコ悪いとこ見られてたのか」

「大丈夫、ウッカリ瀕死なんてよくあることさ」

「いや、それ慰めになってないから」


 頭を抱える僕の肩をポンポンと叩いてミカが言うけど。

 ウッカリ瀕死経験者の彼が言うと変な説得力があるけど。


 そんなしょっちゅう瀕死になりたくない。


 主人公は死なないけど、身体を動かせなくなったら戦線離脱することになる。

 現に落馬した後は、起き上がることもできなくなった。

 ミカが回復してくれたから身代わりの反撃サクリファイスアタックが使えたんだ。


「下手な立ち回りして、帰ったらお説教かなぁ」


 ミカを護る筈が、逆に助けられちゃったから。

 ションボリしながら天馬に乗ろうとしたら、光の粒子に変わってしまった。

 バランスを崩して転びそうになるのを、誰かの腕が支える。


「叱ったりしないから、早く帰っておいで」


 ケイの声だ。

 ハッと顔を上げたら、ケイがそこにいた。


「ごめんね、落馬を止められなくて」


 驚きで言葉が出てこない僕を、ケイが軽々と抱き上げた。

 その背中には、天馬と同じ白い翼がある。

 顔立ちや体格は同じだけど、ルウは6対の翼、今ここにいるケイは1対の翼だ。


 ……ケイの姿をした召喚獣?!


 で、それを使ってケイが会話しているのか。


「突き落とされたりしないように、こうして抱いていれば良かった」

「落ちたのは僕の不注意だし、ケイは何も悪くないよ」


 僕を抱えて飛び立つケイの後に、ミカたちが続く。

 帰りは何事も無く天界に着いて、僕たちは天使長がいる神殿へ向かった。



   ◇◆◇◆◇



「状況は全て見ていた。皆、すぐに帰って休みなさい」


 報告は不要と告げられ、討伐隊の面々が自宅へ帰っていく。

 僕はケイ(召喚獣)に抱えられたまま、寝室へ連れて行かれた。

 ケイに似ているルウが並んで歩くと、まるで双子のようだ。


 ……ちょっと待て。


 3人(?)で寝室へ行って、ナニする気?!


「とりあえず、先にお風呂だな」


 ケイは召喚獣とは思えない手際の良さで、僕を浴室へ運んで洗い上げた。

 ルウも来て、3人で入浴。

 天使長専用風呂は広いので、3人でもゆったりしている。


 ……が。


 ケイは浴槽から出るかと思ったら、僕を抱えたまま縁に腰かけた。


「今日は疲れたろう? 時短しようね」


 ニコニコしながらルウが言う。

 その姿が、青年から少年へと変化した。


 何をするのかは察したけど、時短とは……?!

 キョトンとしていたら、2人がそれぞれ違う場所へ顔を寄せてくる。


「今夜のヒロは【受け】専門だな」


 ケイが言うとおり、今夜の僕に攻め要素は無かった。

 何があったか?

 ご想像にお任せするよ。



 ……30分後。


 風呂場で轟沈した僕は、汗やらナニやら色々洗い流してもらい、バスタオルで拭き拭きされた後、バスローブを着せられてベッドまで運ばれた。


 時短おそるべし。


 ケイとルウの連携が完璧過ぎて30分ももたなかったよ。

 身体に力が入らない。

 ボーッとしていたら、ケイとルウが布団の中に入ってきて、僕を挟んで川の字になった。


「もっと早くにこうしていれば良かった。そうすれば、添い寝を譲らなくて済んだのに」


 少年ルウが囁く。

 彼は、僕と初めて会ったときの姿が自分の本質だと言う。


「でも僕としては、ケイとルウには1つの身体に入って寝てほしいな。でないとどっちに抱きつけばいいのか困る」


 僕は正直な意見を述べた。

 2人が別々に存在してしまうと、敵の攻撃を受けた際にも護りにくくなる。


「そうだな。ヒロがゲームをクリアするまでは、俺はルウの一部だからな」


 ケイがそう言ったとき、ルウは僕の手をギュッと握った。

 感情豊かなAIルウの好感度は、現在ハートが7つ。

 MAX10になるとき、ルウはどんな感情を僕に向けるんだろうか?



 コッソリと好感度チェックをしていた僕は、ミカの好感度がいつの間にかハート3になっていることに気付いた。

 おいおい、今頃かよ。

 ディアモ討伐イベント終わっちゃったぞ。

 多分、大火傷しながら根性で耐え抜いて反撃で倒したからかな?

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