第13話:帰還と報告

 僕を抱えて飛ぶミカと、その後ろを飛んでいる天馬は、天界へ帰る途中で他の天使たちと合流した。

 下位天使たちは僕がディアモを引き付けている間に、救援を頼みに行ってくれたらしい。


「ミカ、良かった。生きてたか……」


 飛翔速度天界最速のファーが真っ先に来て、ミカを見るとホッとしたように微笑む。

 彼は四大天使の中でも、特にミカと仲が良い。


 下位天使たちが救援を呼ぶために離脱したとき、ミカはまだ仮死状態になっていた。

 ファーはミカが死んだりしていないか心配していたらしい。


「ディアモの黒炎球を食らったときはもうダメかと思ったけどな。ヒロが蘇生してくれたおかげで命拾いしたぜ」


 と言うミカは、今は元気そうだ。

 でも、クレーターの中心で倒れていたミカを抱き起したときは、確かに心臓も呼吸も止まっていた。

 心肺停止からキスだけで蘇生できるんだから、この世界は医者いらずだな。

 とか思いながらミカの顔を見上げていたら、スッと近付いたルウがミカの腕の中から僕を奪い取った。


 その素早さ、風の如し。

 風の大天使ファーもビックリだ。


「そうか良かったね。帰ったらゆっくり休むといい」

「え? あ、はい」


 抱いていた筈の僕がいきなりルウの腕に移動したように錯覚したのか、ミカはポカンとしている。

 ミカの後ろで僕を背中に乗せろと抗議の嘶きをしていた天馬も、突然のことにキョトンとしていた。


『ヒロ、ミカの好感度は今いくつだ?』


 深層意識で待機中のケイが念話を送ってくる。

 僕は自分だけが見えるステータスウィンドウを開いて、ミカの好感度を確認してみた。


『あれ? 増えてる……』


 討伐隊の出発前は半分だけ赤いハートが1つだけだったのが、赤いハート2つになっている。

 ハート2つは、頼れる存在、信じられる相手と思っている状態だ。

 ディアモを倒したわけではないので、エピソードとしては失敗の筈だけど。


『多分、命の恩人として認識したんじゃないか?』

『まさか、あれでこんなに増えるとは……』

『格上の敵に怯まず助けに入ったんだろ? そりゃそれくらい増えると思うぞ』


 ケイと僕は、コッソリ念話でそんな話をする。

 その会話が聞こえている筈のルウは、涼しい顔で僕を横抱きにして飛んでいた。



    ◇◆◇◆◇



 天界にある神殿は、ルウの居城であり、神との交信の場でもある。

 討伐隊の指揮官であるミカは、天使長ルウに今回の出来事を詳しく報告した。


「襲撃者は黒炎のディアモ単独です。俺だけを執拗に狙って攻撃してくるので、部隊から離脱して空中戦に持ち込みましたが、残念ながら敗北してしまいました」


 ミカはディアモと空中戦を繰り広げているうちに、下位天使たちの部隊との合流空域に進んでしまったらしい。

 炎の大天使と黒炎の四天王は対極にある者。

 その力は互角であり、第三者の介入などが無ければ戦いは決着がつかないほど。


「私たちは予定よりも早く討伐ノルマを達成したので、合流空域へ行って待つつもりでした。でも行ってみると魔族との戦闘中の様子が見えて、驚いて声を上げてミカ様に不利な展開を生んでしまいました。申し訳ございません」


 下位天使グループの隊長も報告して詫びる。

 僕たちがあのときあの場所に行かなかったとしたら、戦闘がどんな結果になったかは分からない。


「それで、襲撃者はどうしたんだい?」

「次の標的が僕になったので、全力反射フルリフレクトと不屈の反撃を合わせてカウンター攻撃を仕掛けましたが、逃げられました」


 最後は僕が報告。

 盾スキルを活用したと聞いて盾の師匠であるウリが一瞬微笑むけど、周りに気づかれないようにすぐ真面目な表情に戻った。



   ◇◆◇◆◇



 その夜、寝室で2人きりになると、ルウは珍しく「攻め」に回った。

 いつもなら、自分が気持ちいい部分に僕を誘導して愛撫させるのに。

 僕の「ツボ」を心得ているケイと記憶を共有するAIの愛撫は確実にヒットしつつ、波のような寄せたり引いたりして焦らされる。


「ヒロ、愛してる」


 雨のように僕の全身に無数のキスを降らせながら、ルウは繰り返し囁く。

 少年声なのに、ケイが囁いているように感じた。


「私は、君と一緒にエンディングを迎えるのを楽しみにしているよ」


 ルウは僕に覆い被さるようにして肌を触れ合わせながら、また囁く。

 それはまるで、僕に言い聞かせているようだった。


 もしかして、ミカにお姫様抱っこされてたから妬いた?!


 主人公が他キャラと結ばれると闇落ちするという天使長。

 多分、独占欲が強いのかな?

 ケイもそうだから、僕には分かる。


「僕がエンディングを目指す相手はルウだけだよ」


 信じてほしい。


 僕はルウを抱き締めて、寝返りを打つようにゴロンと転がって、上下を変える。

 ルウの愛撫で頭がボーッとしながら、お返しにキスの雨を降らせた。


 第3ラウンド(?)でケイが出てくる頃には、僕は半分寝ていたかもしれない。

 ケイにお任せコースなので、意識がハッキリしなくてもそんなに問題はないかも。

 朦朧としながら息を漏らすような声が出て、翌朝ケイが言うには「いつもの三倍増しの色気」だったそうだ。

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