第1話:飲み会は自宅で

「「「お疲れ様~っ!」」」


 その日、ケイと僕が住む家に集まったのは、開発スタッフ&出演者たち。

 最新の技術を惜しみなく使用したフルダイブ型ゲーム【天使と珈琲を】の制作に関わったメンバーだ。


「アフレコは個別でやったから、誰が出演しているのかほとんど知らなかったけど、馴染みの奴が多いな」


 と言うのは、炎を司る大天使ミカ・フラムエル役のTERUさん。

 テノール系の声質で、熱いキャラクターを演じることが多い人で、ミカも炎が似合う熱いキャラになっている。


「私は先に録音した人の声を聞きながらのアフレコだったから、なんとなく分かったけどね」


 言いながら美味しそうに日本酒を味わっているのは、風を司る大天使ファ・ラエル役の岡田絵美さん。

 女性ながら少年役から青年役まで幅広く演じる人で、ファは風のようにつかみどころのない(天然系ともいう)キャラだ。


「わ~、人気声優こんなに集めちゃって、ギャラ高そう~」


 って爆笑しているのは、水を司る大天使サキ・ジブリエル役の神崎コージさん。

 コメディでは高音テノール、シリアスでは低音バスの声を使い分けるので、オネエ役が頻繁に回ってくるのが悩みだというのが本人談。

 演じるサキもお約束のようなオネエキャラである。


「お待たせ、おつまみ追加するよ~」


 料理上手で調理を任されてしまったのは、地を司る大天使ウリ・ドルフェル役の林翔太さん。

 落ち着いた色気のある低音ボイスが人気で、「愛を囁かれたい男性声優TOP3」に入っている。


「ヒロ、お前が食べたがっていたザーサイ入り手羽先、作ったぞ」

「美味しそう! 翔太さんありがとう!」

「翔太愛してるって言ってくれてもいいんだぞ?」

「え?! いやさすがに愛を囁かれたいTOP3の人には恐れ多くて言えませんよ~」


 そして、翔太さんに餌付けされたりからかわれたりしているのが、僕、広瀬弘樹。

 声優のお仕事は【天使と珈琲を】が初めて。

 つまり新人声優なんだけど、ベテラン勢と気安く話せるのにはワケがある。


「ダメダメ、ヒロが演技以外で愛を囁く相手は俺だけだよ」


 って言いながら背後に歩み寄って翔太さんを拳でコツンと小突いているのは、天使長ルウ・シフェル役の広瀬ケイ。

 5オクターブの広い声域を持ち、モデルの仕事もくるぐらい細身の長身で整った顔立ちでもある。

 彼が登場すると、顔出しイベントでは女性陣による黄色い声の大合唱が凄い。


 ケイは声優とモデルを兼業して、若くして財を築いたと言われる人。

 声優になりたいと言った僕を養成所に通わせてくれたり、自ら演技指導をしてくれた人。

 真冬の公園で独り泣いていた僕を、拾ってくれた恩人でもある。


「も~、ケイだけ独り占めなんてズルイ。ヒロはみんなのアイドルだろ?」


 って言い出すコージさんも含めて、みんな僕が小学生の頃から馴染みの人たちだ。

 知り合って10年くらいになるかな?


 ケイと僕が住む家は郊外の戸建てで、庭も居間も広いからホームパーティがやりやすい。

 それで、声優仲間たちが時々遊びに来ていたから、僕も馴染みになったんだ。


「そうそう、みんなヒロの成長を見守ってきたぞ。ほれヒロ、成人したんだからお前も呑め」

「TERU、飲酒は二十歳からよ」


 ぼちぼち酔いが回ってきたらしいTERUさんが差し出すグラスを、絵美さんがヒョイッと奪い取った。

 どうするのかと思えば、手にしたグラスの中身(多分ブランデー)を美味しそうに飲み始める。

 絵美さんも気持ちよく酔っているらしい。


「ヒロ、俺の手羽先を食え~っ」

「はいはい、食べてます、美味しいです」


 ツマミを作り終えた翔太さんも飲み始めて、酔っ払い1人追加。

 18歳成人でまだお酒が飲めない僕は、翔太さんが作ってくれたオツマミの数々を存分に味わう。

 家主のケイは、向こうのテーブルで飲んでいる開発スタッフたちの接待に行っている。



 たっぷり飲んで食べて、来客たちがほとんど帰った後。

 馴染みの4人と共に片付けを始めた僕は、庭園のベンチで寝ているケイを見つけた。


「あれ? 酔い潰れるなんて珍しいな」


 ケイはいつも適当なところで飲むのをやめるから、酔い潰れるなんてことは基本的に無いんだけど。

 ベンチで寝ているケイは、完全に意識を失っている。


「こんなとこで寝たら風邪ひくよ」


 言いながら、僕はケイを背負って家の中へ向かった。

 片付けを手伝ってくれている4人も、珍しく飲み過ぎた様子のケイを見て首を傾げる。


「珍しいね、ケイが酔い潰れるなんて」

「むしろ初めて見るかも?」

「疲れてたんじゃない?」

「年かな?」


 最後の一言は、もしもケイが聞いたらツッコミ入れるところだろうけど。

 ケイは僕に運ばれている間も、ベッドに横たえられてからも、全く目を覚まさない。

 しょうがないから家主を除く5人で片付けを済ませて、パーティは終了した。


 ケイはパーティ用のスーツを着たまま寝てしまったから、パジャマに着替えさせた方がいいな。

 僕はケイの服を脱がせて、パジャマを着せてあげた。

 今まで、寝落ちるのは僕で、ベッドに運んだりパジャマに着替えさせたりするのはケイで、逆の立場はこれが初めてだ。


 明日起きたら、ケイに「飲み過ぎお疲れ!」って言ってやろう。

 僕はそう思いながらシャワーを浴びてパジャマに着替えて、ケイの隣で眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る