第5話

「え?黒狗とヤッたの?」


改めて。

クリストはリゼッタに聞いた。

処女じゃ無くなった彼女を見るだけで。

途端に汚物の様に見えて来るクリスト。

自分の考えている事が違う可能性を考慮しながら話を聞く。


「ち、違いま、いえ、間違い、じゃない、ですけど…そうしないといけない状態で…」


もじもじと。

彼女はしおらしく言った。

元気の良い、クリストの前ならばどのような事でも喋る様な彼女が。

今では、嘘と虚構を混ぜて喋る様な卑猥な女の様に眼に写る。


「なんで?俺の事が好きだったんだろ?」


責め立てるクリスト。

酒を呑んだ事により、少しだけ気性が荒くなっていた。

ワインをグラスに注ぎこんで、また一気に飲み干す。

段々と、胸元が熱くなり、気分が悪くなってきた。


「なら、抱かれるくらいなら死ぬ事を選ぶだろ?なんでそれが出来ねぇの?」


怒りのあまり、手に持っていたグラスを地面に叩き付ける。

グラスが割れて大きな音が部屋中に響いた。

彼の怒りを受けたリゼッタは、泣きそうな表情をしてクリストに近付く。

どうにか、弁明を聞いて貰おうと思っていた。


「お願い、話を聞いてくださいっ、私はマスターだけを想ってるんです、誰よりもマスターだけを愛して…ッ!!」


遮る様に。

クリストが頭を抱えながら大きく溜息を吐いた。

今の彼女の言葉など聞く価値すらない。

むしろ、彼女の言葉は嫌悪感しか抱かないものだった。


「はぁぁ…他の男のモノを咥えた口で喋るなよ、耳が腐る」


英雄と言われたクリスト。

その言動も英雄らしかった。

しかし、今のクリストは違う。

まるで酒場で飲んだくれた中年の様な脂ぎった言動だ。

クリストの豹変ぶりに、リゼッタは泣きそうになっていた。


「っ、そ、そんな事、言わないで…」


舌打ちをしながらリゼッタを見る。

あれほど魅力的に思えた彼女の肉体が腐った肉の様に見えて来た。


「あーあ、処女だからストーカーでも許せたのに…つまり、中古になったんだろ?なんで他人のお下がりを、俺が貰わなきゃいけないんだよ」


彼女の心を傷つける様な言動を続けて言う。


「主人公なら、お前みたいな裏切り者は選ばない」


そう言って、クリストはリゼッタを否定した。

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