ラブピーチ

子供と未来

【ラブピーチ】


休日の昼下がり。


レンタルビデオ屋の中でうろついていたら、自然と晋とはぐれてしまった。



でも人混みがひどいわけでもないし、携帯を使うまでもなく晋をあっさりと見つけられた。


映画ドラマのDVDではなく、音楽CDコーナーにいた。



「晋、映画見るんじゃなかったの?」



1つのCDを手にジッとしていた晋に話し掛けた。



「えっ、わっ!?ビビった!!比奈子!いつの間に!?」


「気付かなさすぎ!……それ、借りるの?」



晋がガン見していたのは、某こども番組の曲を集められたアルバムだった。



晋はそれを見ながらヘラッとニヤけた。



「んー、どうしようかなーって悩み中。明後日には姉ちゃん達が遊びに来るからさ!」



数ヶ月前、晋のお姉さんは無事、一人の女の子を出産をし、晋も無事にオジサンとなったわけだけど……


晋にオジサンって響きは本当に似合わない。


だけど晋はむしろ言われたいらしく……



「俺ももうオジサンだーオジサンだよー!」



と連呼する。


既にデレデレである。



姪っ子はまだ生後1年未満なのに。


マザコン、ファザコンならぬ……姪コンになるの早すぎ。


だけど晋は至って真剣な表情。



「……うーん、でも……乳児に幼児の音楽通じんのかなぁ」



必死に悩んでいるオジサン。


そんな晋がなんだか可愛くて笑った。



「え……何何っ!?」



笑った私に晋は不思議そうに見た。



「晋、絵本とかは?そういうのもいいと思うよ?0歳児用の言葉遊びの……」



私の提案に晋は目をキラキラさせた。



「おぉ!さすが比奈子!!そうだな!あとで本屋寄ってもいい?」


「はいはい」



晋の中で結論が出たみたいでCDをもとに戻す。


そして二人で映画コーナーに戻る。



「で、比奈子はさっき何を笑ってたわけ?」


「いや、姪っ子がもうそんなに可愛いんだーって」


「可愛いよ!!まだ数回しか会った事ないけど。!!出産後で病院で同じ日に生まれた赤ちゃんが並んで寝てたの見たことけど、うちの子が一番可愛かったね!!確実に!!」


「うちの子って……あんたの子供じゃないから」


「いやぁー早く抱っこしてぇっ!!」


「聞いてないね!!」


「比奈子も会いに来てあげてよ!!姉ちゃんも母ちゃんも喜ぶし!!」


「あ、お祝いには行くよ。私も抱っこしたい!!」


「だろ!?比奈子も会ったらうちの子の可愛さにビックリすんぞ!!」


「だからあんたの子供じゃないって!!」



晋はとっても楽しそう。


でもその笑顔を好きって思った。


って、こんなときに何考えてんだ!私!!



「ん?比奈子、顔赤い。なんで?」


「なっ……何でもない!!!!」


「ハハハッ、変な顔!」



彼女に向かってなんつーことを!


鼻歌交じりで晋は陳列しているDVDを眺めている。


姪っ子でこんなにデレデレだったら、自分のこどもの時はどんだけ親バカになるんだか。


あ……でも、


ついフフフッと笑いを漏らした。



「えっ、比奈子はさっきから何なの?」


「いや、晋はきっと良いお父さんになるんだろうなーって思ったから」



オジサンって響きは似合わないけど、きっと子供を大事にしてくれるパパになりそうだ。


急に目をキラキラし出した晋は私に顔をグッと近付けた。



「ホント?比奈子、ホントに!?」


「思うよ……って、何?急に」


「比奈子がむちゃくちゃ可愛いこと言うからじゃん!!」


「えぇっ!?どこ!?」


「全部!ものすっげぇキスしたいんだけど、どうしよう!!」


「ス……ストップ!!」


「ムリ!!キスしていい?」


「だからストップってば!!」


「ケチ!」


「ケチとかの問題じゃなくて、むちゃくちゃ今外じゃん!!ガッツリお店の中じゃん!!ダメなもんはダメ!!」


「大丈夫!今なら誰も見てないから!!」


「そういう問題じゃないっての!!」


「大丈夫な気がする!!」


「バカ!」


「つーか、こないだ外でもチューしたじゃんか」


「あ…れは……流れというか、雰囲気というか……」


「今も雰囲気の流れで、」


「バカ!?」



晋は「えー?」と不満そうに首を傾げる。


もう本当……コイツに照れという概念はないの?



「か……帰って、部屋でしていいから」



必死に恥ずかしさを抑えて、小声で晋に囁いた。


私なりの譲歩。


すると晋はニヤニヤした顔で私を見た。



「帰ってからは、むしろ子作りがした──……うっ!!!!」



晋が最後まで言う前に腹パンチを決めてやった。



「バカ!!セクハラ!!」


「いやいや……自分の彼女にセクハラも何も……」


「変態っ!!」



私は真っ赤になってるのに、晋は何てことないようにいつもの八重歯を見せてギャハハと笑った。


DVDを適当に2つ3つ選んだ。


もうコレでいい!!



「あ、おい!!比奈子!!」


「うるさい!晋のバカ!!」



レジに向かって歩くと、一応後ろから着いてくる気配はあった。



……



振り返ると、晋はシュンと少し拗ねた様子だった。



「……」


「……」



……言い過ぎだった?


……


もーっ!



「晋」



晋に呼び掛けて、手を差し出した。



「行こう?このあと本屋も行くんでしょ?」



私がそう言うと晋は私の目をジッと見た。


私の顔がそれで赤くなると、笑顔で頷いた。



「おぉ!」



晋は嬉しそうに私の手を取った。


お店を出たあとも、晋は終始笑顔で繋いだ手をブランコのように振った。



「比奈子!!楽しいな!!」


「そ……、そう?」



そんな無邪気に喜ばれるとリアクションに困るんですけど!?



「なぁ、比奈子」


「うん?」


「もし比奈子がお母さんになっても、きっと楽しいだろうな!」


「─へっ!?」


「怒ったり、笑ったり、手を繋いだり」


「普通……じゃない。むしろそんな感情激しい母親で大丈夫?」


「大丈夫だよ!俺が甘やかしちゃうところは比奈子が叱ってくれて、それで比奈子が怒った時はその分俺が子供を楽しませてあげるよ!!」



晋がとびっきりの笑顔でそう言った。



「俺ら、最強!」



そしてまた繋いでいる手を揺らした。



「楽しいよ!ぜってぇ!!」



そんな晋の様子に私はドキドキしっぱなしだ。


な……なんでコイツはいつもいつもこういうことをサラッと無邪気に言うかなぁ。



……でも、


もし本当に、


例えば今繋いでいる二人の間にもう一人、


小さな手を繋げていたとしたら……


晋といる未来は楽しいに決まっている。


なんだか思わず笑った。


ずっとずっと一緒にいたら……。



「えっ!また笑った!!」


「あ、いや、別にこれはその……」


「全然笑ってくれてていーよ!俺は嬉しい!!つーか可愛いっ!!すごく!!」


「なっ!?」


「つーか、キスがしたいです!!」


「まだ言ってる!?」


「まだっていうか、ぶっちゃけると比奈子の顔を見た時から今日ずっとキスしたいのガマンしてるよ?俺」


「バ……バッッ、バカじゃないの!?」


「比奈子、帰ったら……痛ってぇ!!まだ何も言ってねぇよ!!」


「うるさい!!」



私達は言い合いを繰り返しながら、繋いだ手を離すことなくギューッと握り合っていた。


飽きることなく


これからも一緒にいてほしいと思っちゃうほど


私は君の虜……だよ?



【ラブピーチ 完】

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ビンカピーチ 駿心(はやし こころ) @884kokoro

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