スイートピーチ

乾燥と湿潤

【スイートピーチ】



部屋で本を読んでる途中、軽い咳が出た。



「何?比奈子……風邪?」



ベッドに腰掛けていた私と違って、ベッドを背もたれ代わりにクッションの上に座ってゲームをしていた晋は首をわざわざ捻って振り返っては私は見上げた。



「いや、そうじゃなくて多分ちょっと乾燥してただけ」


「そっかーそっかー」


「……ちょ、なんでベッドに上がってくるわけ?そんで近いわよ!!」


「ん〜、まぁまぁまぁまぁ」


「何が『まぁまぁ』よ!!わっ!!だから近いってば!!」



猫のようにジリジリと近付いてきては、壁まで追いつめられて、これ以上後ろには下がれない。



鼻と鼻が触れそうな距離で晋はニヤニヤとした顔で私を見つめてくる。


近い!!


壁ドン!?


いや、どちらかっていうと最早……肘ドン。


近すぎる!!



「比奈子、風邪は人に移すのが一番っていうよね〜」


「ちょっ!!だから聞いてた!?暖房効いてて、ちょっと咳出ただけよ!!風邪じゃないってば!!」


「じゃ、喉を潤さないと!!」


「は?潤……?」



そこまで言いかけて、晋の意図に気付く。



「バカ!!どっちにしても退くゼロなんでしょ!?」


「えへへ〜バレましたか……」


「ホントにバカなんじゃないの!?アンタのそういうところが……」



最初から私の意見なんて却下だったらしい。



晋に唇を塞がれる。


その押しの強さに壁を背にしていたはずがズルズルと下がって、晋に馬乗りされる形へと変わる。



暖房とは違う感覚で顔だけが火照ってきた。


私の口の入り口をこじ開けようとする晋は啄ばんだり、唇や舌でノックしてくる。


その優しいアプローチに羞恥で瞼も口も固く閉じたまま。


力を入れ過ぎてちょっと震えたかも。


フッと息継ぎで数センチ離れた晋はムスっとした顔で口を尖らせてきた。



「……何で、口開けてくれないわけ?」


「わ……私、まだ話してた途中だったでしょうが!!」


「何?俺のこういうところが?」


「晋のそういうところが……」


「……『嫌い』?」


「……」


「……比奈子?」


「……嫌いだなんて……い……言ってないでしょ……バカ」


「……」



いきなり私の顔をガッチリとホールドしてきた晋はめちゃくちゃにキスしてきた。



「ん!!……は……わっ……ちょ!!」


「比奈子、予定変更!!」


「は!?」


「風邪を直す方向じゃなくて、一緒に風邪引こう!!」


「はぁ!?意味わかんな……」


「だから服脱いで!!」


「わあぁーっ!!!!バカバカバカ!!!!」



冬の寒さに負けない晋の湿度の高さで私の頬が火照った。



【スイートピーチ 完】

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