ビンカピーチ 【番外編】

クリスマスピーチ

準備とデート

【クリスマスピーチ】


鏡の前で一呼吸。


いつもよりゆっくりと念入りに準備したのに、落ち着かない。


こんな気持ち……中学、高校の時ぐらいにしかないものだと思っていたけど……。


デートが楽しみだって気持ちに年齢は関係ないみたい。


実はこの日のためのワンピース……買ってみたりして……。


初デートじゃあるまいし……



でも……



「比奈子」


「うぎゃあっ!!!!」



いつものごとく、晋がいきなり部屋に入ってきた。


さっきまでの乙女気分には似つかわしくない声が出てしまった。


晋は生意気な感じで笑う。



「ぎゃはははっ!!ビビりすぎ!!」


「ほ、ホント怒るわよ!!もし次からノックしないで入ったら……」


「しないで入ったら?」


「……えっと、」


「考えてないのかよ!!」


「うるさい!!」


「ミキリ発射すぎ!!」


「いや、でもノックせずに入ってくる晋が悪いでしょ!!どう考えても!!」


「怒んなって」



晋は悪気ゼロの態度にニコニコ笑う。



「比奈子」


「な…何よ、私はまだ納得してな──」



喋ってる途中なのに、晋の手が私の顔を包んで、キスしてきた。



「んっ!?」


「……」


「んーん~ッッ!!」


「……っ」


「んー!!!!……っぶ、はぁ、はー!!何!?いきなり!!」


「すっげぇキスしたくなって」


「今!?」


「だって」



晋がギューッと私を抱き締めた。



「今日の服、初めて見る。可愛いー!!」


「え……」


「比奈子さん、いつもより気合い入っちゃいました?俺のため?」


「バ……バカじゃないの?」



微妙に図星を突かれて恥ずかしくなって、何とか晋の腕から逃れようとバタバタしてみるけど、抜けない。


こういう時の晋の馬鹿力はハンパない。



「嬉しい、比奈子可愛い」



コメカミにキスしてくる晋から香りがする。


クリスマスデートは出掛ける前から、心臓が壊れそうです。



「あ……思い付いた!」


「比奈子、どうかした?」


「次ノック無しで部屋に入ってきたら、しばらく勝手にキスするのも無しで」


「ペナルティが重すぎるっ!!!!!!」



晋の叫びに思わず笑った。


そんな話をしたあと準備ができたので、二人で街へ行った。


歩いている内にすっかり暗くなってて、でもむしろクリスマスならムード満点である。



「比奈子!あっちだよイルミネーション!!」



まだイルミネーションが見えていないのに、晋は楽しそうに指差す。


私もつられてテンション上がる。


だけど降りた駅から離れていくほどに人混みが増えていく。


目当ては皆一緒なんだね。


でも今日はクリスマスだからと思えば、人混みでさえ今日ならではとワクワクする。


……って、



「あ……れ?」



気付けば隣に晋がいなくなっていた。



暗くなった周りを見渡しても、ただの人混み。



はぐれるの、早っ!



「し――」


「――ぶねぇっ!!比奈子とはぐれるところだった」



突然背後から再び出てきた晋は「あぶねーあぶねー」と笑ったが……



「いやいやいや、もう既にはぐれてたから!!」


「大丈夫っ!俺の中で今のは、はぐれた内に入んねぇ」



すぐに人混みからピョッコリ戻ってきた晋だったけど、バカじゃないの?と思った。


だけど晋はやっぱりニコニコと楽しそう。



「ん!早く行こうっ!!今の時間、ぜってぇキレイだから!!」


「もう自由人め」


「はいはーい、行くよ」


「だからそんな先々行くなっつの。またはぐれちゃうよ」



私がそう言うと、猫目はキョトンと私を見てから考えるように一瞬上を見て、そしてまた私を見た。



「じゃあ……」



晋が手を差し出した。



「繋ぐ?」



急に差し伸べられた手にちょっとポカンとなって、晋を見た。


私と目が合った晋は急に顔を真っ赤にさせた。



「ま…を空けんな、を!!ハズくなんだろっ!!」



マフラーで口元を隠した晋に、私も顔が熱くなった。


さっきまで兄弟みたいに騒いでた分、この感覚がくすぐったい。



「……じゃあ、」



晋の手をギュッとすると、晋は私の顔を確認するように見つめては私の手を握り返した。


素肌を阻む手袋の距離すら、もどかしい。



「じゃあ、行くか」



晋の笑顔に私も頷いた。



進むほどにチラチラとライトが増えていく。


そして一番飾られている場所まで来れば、息を飲んだ。


熱かったはずの頬も長時間の外の冷気には勝てなくて、ヒヤリとした。


晋も鼻が赤い。



だけど輝きに夢中の私達は騒ぐことなく、イルミネーションアーチを見上げながらくぐって歩き続けた。



綺麗。


言葉にするのももったいないから、晋の手をギュッとすれば、晋もギュッギュッと二回返してくれる。


それだけで、満たされる。


アーチを通り抜けて、やっと晋が喋った。



「比奈子」


「うん」


「ハラ減った」



晋の素直な感想に私は笑いをこぼした。



「うん、そろそろ時間だし食べに行こうか」



もう少し見ていたかったけど、予約の時間もあるし、私もお腹空いたし。


ちょっぴり残念な気持ちで俯きかけた額にチュッと冷たい唇が触れた。



「へっ!?」


「帰りもまたココ通ろうな」



八重歯を見せる晋の笑顔に心臓がドキンとなった。


晋のコレには何回も経験してきたはずなのに、私は飽きることなく胸がドキドキする。


イルミネーションをもう少し見たいと思っていた私は晋の言葉が嬉しかったのに、



「外でキスすんなバカっ!!」


「いてっ」



私も相変わらずで肩を殴ってしまった。


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