爆発と沸々
爆発と沸々
「……晋」
「……」
「しーんー?」
「……」
晋の部屋で二人並んで座る。
とりあえず2時間の論争の結果。
私が勝ちました。
と、いうか晋が折れた。
ある意味、休戦?
だけど晋は納得いかない顔でブスーッとしている。
「考える!!ちゃんと考えるから!!」
「だいたい、俺は聞きたいんだけど」
晋はズイッと顔を近付けた。
「比奈子は俺のこと、好きなんだよね?」
「う……うん」
「俺ら付き合ってるんだよね?」
「うん」
「じゃあなんでダメなの?」
「なんでって……そんな真っ直ぐな瞳で言われても……」
つか真っ直ぐすぎ。
「比奈子は俺が好き!!俺も比奈子が好き!!付き合って二ヶ月過ぎた!!俺としてはもっとラブラブしてもいいんではないかと思うわけだよ!?おわかり?」
うわ……
すごい怒ってる?
……そんなにしたい?
でも私にだって意見がある。
「ぎゃ…逆に私も聞くけど」
「どうぞ」
「……そこまでして、何でしなきゃいけないの?」
「……」
しばらく見つめ合った。
甘い雰囲気とかじゃなくて、固まったような時間。
それが終わると、晋はゆっくりと仰向けになって倒れた。
「比奈子の精神年齢が低すぎて疲れたー……」
「はあ!?なんで!?」
「とりあえず一旦、話し合いはおしまい!!ブレイクタイム!!」
「勝手に終わらすな」
晋の腹筋に軽く拳で叩く。
晋は「う…」と呻いただけで、無理矢理目を瞑ってふて寝をする。
こうなると起こしたくなる。
気合いを入れて「うりゃ」と晋の腰をくすぐった。
「ひっ、ギャハハハハ!!ちょ……ヒャハハ!!!!ひなっ…ぶはっ!!」
「うらうら!!寝るな!!」
「わかった!!ヒャハハ!!ストップ!!わかったから!!スト……ハハハッ!!!!」
晋にくすぐっている手首を引っ張られた。
バランスを崩して晋の上に倒れそうなった寸前で、晋の顔横に手を付いた。
危なっ!!
今度は私が横から晋に覆い被さっている。
くすぐられた余韻でゼェゼェと息切れしている晋を見下ろして、妙に慌てた。
微妙にエロい!!
いやいやいや!!私は別に晋に欲情なんかしないけど!!
慌てて退こうとしたのに、晋の腕が私の腰をがっちりガードしてきた。
「ちょっと!!」
「あはは。比奈子さんのエッチー」
「バカ!!何言って……」
さっきの事が事だけに晋の冗談にも取り乱しそうになった。
「……確かにさ」
急に静かなトーンになった晋が髪を掛けるように私の耳に触れた。
思わずピクンと体が動いた。
「別にヤることが全てじゃねぇし、そのために付き合ってるわけじゃないって……俺もわかってるよ。しなきゃいけない義務じゃねぇよ?」
「……うん」
「でも好きなら比奈子に触れたいし、触れたらキスしたいし、キスしたら舌入れたいし」
「う、うん」
「入れたら胸触りたいし、胸触ったら……」
「わ…わかった!!わかったから!!」
「わかってねぇよ」
熱くなる頬に晋の手が添えられる。
「好きなら限界ないってこと。比奈子の心も体も思考も時間も……全部ほしい」
「…―ッッ」
「全部全部ほしい」
晋の指が耳たぶを摘むようにもう一度耳に触れる。
今日一日でドキドキしすぎて、私の寿命が確実に減ってる気がする。
今、自分が一体どんな顔をして晋を見下ろしているのかよくわからない。
それより心臓がうるさい。
晋の目と手が私を離さない。
「今日はしないって言ったけど、俺はもう待てないから。わりと。結構。だいぶ」
「そんな強調しなくても…てかストレートすぎて、私はどう反応していいのかわからないっていうか…」
「俺もどうしたらいいのかわからん。最近、比奈子を見てるだけで……正直たまらない」
そんな目で私を見上げないでほしい。
私がたまらず目を反らした。
でもそんなことしたところで、耳の熱が晋に伝染してるんだと思う。
「このまま見てるだけとか、キスするだけとか、我慢できない」
「う……だからさ、そんなこと言われると余計恥ずかしいっていうか」
「好きすぎて……俺の心臓が爆発するよ」
「えぇ!?ば…爆発っ!?」
反らしたばかりなのに、思わず晋を二度見した。
爆発!?
「晋、爆発するの!?」
「こう…なんつーか、心臓がギュー、メリメリー、ウゴォー!!みたいな」
「……『胸が張り裂けそう』とかじゃなくて?」
「あ!!それ!!それが言いたかった」
「ちょ…それが爆発っ!?」
悪いけど笑った。
爆発って!!
自分で間違えたくせに晋もウケている。
「おいー、俺わりと真剣な話をしてんだけど?」
「晋だって笑ってんじゃん!!ぷっはは!!爆発!!」
「似たようなもんじゃん」
「いやダメだよ!!爆発しちゃ!!」
「アハハッ!!確かに!!それはダメだ!!」
「私だって結構マジメに話聞いてたのにー!!」
「じゃあ笑うなよー」
「晋が『爆発』って言うせいじゃん!!爆発!!」
「なに『爆発』ってワード気に入ってんだよ」
微妙なところでお互いツボに入ってしまって、二人でしばらく爆笑していた。
◇◇◇◇
「なんでそこまですごく良い雰囲気だったのに、グダグダの爆笑で終われたのか謎なんですけど?」
杏里がイライラした手つきで煙草の灰を落とす。
今日は講義が休みになったから、近くのファミレスでお昼を食べている。
「そういや私、ファミレスとか高校生ぶりだな」
「おい、私の話を無視すんな」
「無視してないよ!!……で、なんだっけ!?」
「……はぁー。晋くんは甘過ぎる」
「やだ。私、ノロケ話なんてしてないよ?」
「わかっとるわあぁぁ!!!!誰がそんなレベルの低いノロケ話聞くかあぁぁ!!!!」
うぉ、あ…杏里が……壊れた。
煙草を揉み消し机を叩く杏里を呆然と見た。
「あんたの気持ちばっか合わせてもらって!!比奈子を甘やかしたところでダメに決まっとろぉがあぁっ!!比奈子への甘やかし禁止って晋くんに伝えろ!!」
「甘やかしっ!?」
「つーかあんたはそこらの中学生カップルでも捕まえて、ラブラブのラの字でも教えてもらえ!!」
「そんなにひどい!?」
「早く覚悟決めろ!!てかそういう悩みは中高生の時に済ませろや!!お前いくつやねん!!」
「なんで関西弁!?」
「ともかく!!」
杏里が指を突き付けて、その指先が私の鼻に触れた。
「今度こそ真面目に考えなさい!!」
煙草の香りが届いた鼻にツンと触れている指と爪に、なんだかシュンとした気持ちになった。
「…………考えたし」
「まだまだ足りないってこと!!現に晋とお互いの認識がズレちゃってたじゃない!!」
「いや…伝えた!!今回のことで、まだ処女ってことも言ったし、でもちゃんと好きも言った」
「私は『お互いに』って言ったよね」
「……晋の気持ちも聞いたよ」
私の口からもう一度言うのは恥ずかしすぎるからカットするけど。
杏里はもう一度煙草に火を点けた。
「それで、聞いてからが大事じゃん。比奈子の気持ちを聞いた晋くんは、一応その場は比奈子に遠慮して、そしてそれでも自分の気持ちも言った……っていう行動に出たわけだけど」
「……うん」
「それを聞いた比奈子はこれからどうするの?」
「……わからない」
「……」
「杏里はなんでそんなに怒るの?」
「……怒ってるというか。比奈子がさ」
二本目の煙草に杏里も本来の落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと言った。
「あんまり拒否してるから、晋くんのこと本当に好きなんかなーって心配になるんだよ」
「はあっ!?好きだし!!好きじゃなきゃこんなに悩まないし!!!!」
「幼なじみとして……じゃなくてだよね?」
「うん」
そこはハッキリと言い切れる。
言い切れるけど、やっぱり腑に落ちない。
「ねぇ?なんでそこまでしなきゃいけないの!?」
「付き合ってるからでしょ」
「でもそのために付き合ってるわけじゃないじゃん!!好きだからじゃん」
「好きだからしたいんでしょ?」
「……杏里、晋と同じこと言う」
「……まぁ、男の子の恋心と下心はどうしても繋がっちゃうっていうからね」
「なんで男心を語れるの!?杏里は男なの!?」
「いや、違うけど。一般論だと思ってくれない?」
「……私だって別に100%拒否してるわけじゃないよ?」
「うん」
「ほら、なんというか…晋に『山に登ろう!!』って言われて、『そんなに言うなら登るけど……』みたいな!!自分からだったら多分登らないけどっていうテンション?」
「ちょっと待て。セックスと山登りは全然違うだろ」
「ものの例えじゃん!!」
「だとしたらその例え下手くそ」
確かにそうだ。
実際は山登りというより谷底へダイブのが近い。
未知への恐怖。
底が見えないところへ飛び降りるのは勇気と覚悟も必要なのかも。
すっかり冷めたカフェオレを飲んでも解決しない。
堂々巡りの私に杏里も溜め息をついた。
「いつもは勢いでいくくせに……なんでこういう時に尻込むかなぁ」
「尻込むというか……エッチってこんな感じでやっても良いんかなーって。カレカノの一大イベントみたいなもんじゃん……スイートルームみたいなところで、もっとこうお互いが高まって……」
「てか無駄に理想高く持ちすぎ。身持ち固い事は褒めるけど、そこまで固くなくていいじゃん、好きな相手なら。晋くんのこと好きなんじゃないの?」
「しないと好きじゃないってことになるの!?」
「まぁ……そこまでは好きじゃないんかなーってなる」
「……」
疑心暗鬼。
私……そんなに晋のこと好きじゃないんかなぁ、と不安になってしまった。
でも……
『このまま見てるだけとか、キスするだけとか我慢できない』
あの声、目、手、熱。
全てを忘れることも出来ない。
あれが自分に向けられているのかと思うと頬が熱い。
晋を思い出して、太股が震えた。
頬杖付く杏里はまだ心配事があったらしい。
「比奈子、それにさ…今までの彼氏も大体これぐらいの時期がやばくなかった?」
「へ?」
「フラれたり浮気されたり……」
「……痛い傷口えぐらないでよ」
「言葉だけじゃない体の関係も愛には必要ってこった!!」
やけに格好良く話を締めた杏里だけど、ケケケと笑う様はオッサンのようにも見える。
でも言い返すことは出来なかった。
確かに3ヶ月目はヤバい。
別れの危機は大体付き合って3ヶ月目ってのが過去に多かった。
浮気だけは勘弁してほしい。
「晋くんに限って浮気の可能性はないんじゃない?」
私の考えを察したのか、杏里がゆっくりとした口調でフォローしてくれた。
そうだよね!と言いかけて顔を上げたら
「フラれる可能性は大いにあるけどね」
杏里がもう一度私を叩き落とす。
「フ…フ…フラれるかな」
「『比奈子のこと…好きだけど、一緒にいるのは辛いから一旦距離をおこう』」
「うわぁ……一度聞いたことあるようなないようなセリフやめてー」
「まぁ危ない可能性はそれぐらいかな。ヤったことあるかないかで、勢いの過ちみたいなんもあるけど」
私はきょとんと首を傾げた。
「晋はないよ」
「あ、ないんだ」
「いや……知らないけど」
「……は?」
「はっきり聞いたことはないけど……でも多分、晋はないんじゃない?」
「……私はてっきり晋くんは経験済みかと思ってた」
「はあっ!?」
私は身を乗り出した。
「なんで!?なんでそう思ったわけ!?」
「…話の雰囲気でなんとなく。年頃の童貞がそんな軽快なエロジョークは言わないでしょ。童貞のエロジョークはもう少しねっとりしてるというか」
「いや!!ないよ!!ないないない!!私はないものだと思ってるもん!!晋も初めてなんじゃないの!?」
「……何を根拠に」
「だって私聞いてないもん!!」
「いや…私も知らないし」
私と杏里のテンションは最初とは逆転した。
私はOの口のまま固まった。
ないよ!!ない!!
だってあるとしたらいつ!?
いつヤったの!?
ないないない!!!!
でもそこで思い当たる節が頭に過る。
『中学生の時の晋の記憶がない』
そうだ…私は元カノがいた中学時代の晋との思い出は空白だ。
その時の晋を
私は知らない。
沸々と……熱いものか冷たいものかわからない感情がドロッと沸き出た。
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