甘いと辛い2
息が
止まりそう。
だけど唇に触れる直前に晋が止まった。
え、何事?
眉をひそめて、焦点を晋に合わせた。
晋は口を一文字に結び、渋い顔を作っていた。
どうやら『何もしない』という自分の言葉を思い出したっぽい。
キスされなかったけど…
逆に恥ずかしい!!
少し待ってた自分がかなり恥ずかしい!!
何!?この羞恥!!
完全に固まっていたら、晋に頭を抱えられて、再び晋の肩に頭を戻された。
晋の大きな溜め息が聞こえてくる。
ずっとこうしてるわけにもいかないよね。
そう考えているうちにつむじに重さを感じた。
しばらく考えて、ハッと顔を上げた。
つむじにキスした!?
晋は悪戯がバレたみたいな感じに笑っている。
バカ……
いつもみたいに言いたいけど絶対顔が赤い、私。
調子が狂いまくりで何も言えずに俯くことしか出来ない。
晋から香りがする。
制汗剤か何かかな。
考えて余計にドキドキする。
やばい
ってわかってるのに動けない。
いつも一緒にいる雰囲気と違う。
それともこれは私の心境の変化?
晋の手が私の首と頬を包んだ。
つむじに触れた唇が動く。
それが顔に触れて、一瞬ビクッと震えたが、晋のキスは優しかった。
一度、鼻を甘噛みされて、また
唇はスルーして
口だけを避けて、ゆっくりたくさん順番にキスされる。
されるがままの私は晋の手首を掴んで、無意識に唸った。
息も勝手に止めていたらしく、苦しくなって大きな息を吐き出した。
胸が苦しすぎる。
晋のことが好き。
どこが?って聞かれたら、ものすごく困る。
今までの好きな人なら理由が言えた。
優しいとか、格好良いとか、一緒にいて楽しいだとか……
一応どれも晋に当てはまることだけど、だから晋のことを好きになったのだっていうのは違う気がする。
理由がわからないのに、ただただ胸がキュッとなる。
私、晋のことが好きなの。
晋、わかってる?
「あのさ……」
久々の晋の声にビクッと我に返った。
「比奈子、なんで逃げねぇの?」
「え?」
「キスしていいの?」
晋に言われて、顔が更に熱くなった。
「な…な…なんでって……晋に首と顔を押さえられてるから……」
「……まぁ、そうなんだけどさ」
違う。
支えられている手はすごく優しいから、押さえられているなんて言い訳にならない。
晋に押さえられているからじゃなくって、私は晋のことが……
晋は目を細めてジッと見てくる。
「そうなんだけど、いい加減抵抗してくれないとマジで止めらんなくなるから」
晋が両手を離した。
「え?」
「真面目にキスしちゃうよ?俺はオープンスケベだから」
晋は両手を軽く上げて、いつもの笑顔をした。
冗談の空気で終わらせようとする晋。
30センチ離れただけなのに、さっきまでの隙間もなかった距離を知ってしまったから、ひどく寂しい気持ちになった。
行かないでほしい。
晋のことが好き。
今なら言えそうな気がする。
「はいはーい。充電も完了しましたし、これで……」
「……別に、」
ポツリとこぼした言葉に晋は「ん?」と首を傾げた。
「別に……晋がしたいなら、すればいいよ」
「……え?」
私は手を握って拳を作った。
「私は……別に構わない」
それが言葉に出来た私の限界。
恥ずかしい。
俯いた。
キスしてほしいと誘ってるみたいだから。
バレたかな?
これで伝わらないかな。
気付いてほしい。
気付いてほしい。
私の気持ちに気付いてほしい。
好きだと言ってほしい。
溢れる気持ちに心臓が収まらない。
おそるおそると顔を上げてみた。
晋は恐い顔をしていた。
「…しん」
名前を最後まで言うや否や、肩を掴まれ、壁に押し付けられた。
痛い。
「別にって何?」
至近距離で私を見てくる晋。
だけど数分前との晋の顔から想像つかないぐらい恐い。
「……晋?」
「構わない?……あぁ、そうだよね」
左肩を掴まれていた力が更に強まった。
「比奈子にしてみれば、俺のキスなんて……なんてこたぁねぇよな」
「……晋!?違っー」
「俺が小学生の時から……比奈子にしてみたら、俺とのキスは犬に舐められたぐらいにしか思ってないんだろ?」
カァーッと熱くなって、頭が白くなりそうだった。
まさか昔のキスを出されるとは思わなかった。
「あの時のあれで、俺は付き合ってるって勘違いして……すげぇ恥ずかしかった」
晋が小学生の時のキス。
八つ当たりのキス。
始まりのキス。
失恋してむちゃくちゃになっていた当時の私にとって、その時のキスは確かに何も思ってなかったし、何も感じてなかった。
ある意味、私の黒歴史。
だけど……
「俺、言ったよな!?今じゃ、あの時とは気持ちも体も違うって!!」
「……うん」
私はただ頷いた。
だって私もあの時とは変わってしまっている。
晋が息を吸い込んだ。
「なぁ?もう子供の時のキスとは違うんだ!!わかってる?」
「わ……わかってるよ!!」
「わかってねぇよッッ!!」
掴まれていた手を離し、晋は俯いて顔を片手で覆った。
「比奈子にとって"別にどうでもいいキス"でも……俺は…俺は……」
痛い。
痛い。
心臓が痛い。
違うんだって。
私もあの時とはもう…
「……辛い」
晋がそう言葉をこぼした。
「比奈子の傍にいるだけで……よかったのに。比奈子に彼氏がいようと俺に見向きもしなくても……それだけでよかったはずなのに……」
見たことない晋の姿に言葉が見つからない。
離された肩がジンジン痛い。
「どんどん比奈子のこと、好きになったら……どんどん苦しくなる」
「晋、」
「比奈子の傍にいるの……辛い」
「……え?」
「比奈子のこと、好きなのに辛い」
晋はもう一度「辛ぇよ……」と言った。
『晋から言ってもらえたら、私も素直に言える気がするんだよ』?
私は言える?
言えるの?
今しかないよ。
今言うしか……
だって私は晋のことが
自分の髪を掴んでいた晋はその手をゆっくりと離し、ベッドから降りた。
「晋?」
体を伸ばした晋が「やれやれ…」と明るい声を出した。
「比奈子もさ、早く彼氏作れよ?」
「……は?」
そこにはいつもの無邪気な笑顔を装う晋がいた。
なんで?
さきほどの晋がいない。
晋の心が隠された。
だけどそれよりも晋の言葉に眉をひそめた。
「彼氏?」
「彼氏がいなくて寂しいからって、『別に』の相手とキスしちゃダメだろ」
「は?あんた、何言ってんの!?」
一気に血圧が上がった。
笑顔で何言ってんのよ!!
いらない!!
彼氏なんかいらない!!
晋の口から聞きたくない!!
「あ、欲求不満なんじゃね?やっぱ俺が相手しようか?」
目の奥がカッとなった。
落ちていた枕を拾い、おもいっきり投げ付けた。
「ーッッばかぁ!!!!」
晋が笑って手でガードしたけど、枕が落ちる
ガードした手をゆっくり降ろした晋がこっちを見た。
眉間に皺が寄った笑顔。
切ない瞳。
晋が背中を向けた。
「晋!!」
「じゃあ……な」
最後は顔も見ずに晋はそのまま部屋を出ていった。
……
嘘だよね?
これで終わりじゃないんだよね?
また前みたいにノックもせずに戻ってくるんでしょ?
だって…
涙が流れた。
晋、私泣いてるよ?
戻ってくるんだよね?
いつもの通りに明日も隣にいるんだよね?
晋…
辛いって何?
私が好きなんだよね?
私も好きなんだよ!?
晋!!
「ああぁっ!!!!もうっ!!」
自分自身への怒りで声が出た。
晋にキスされた瞼から涙が止まらない。
晋に押さえ付けられた肩が痛くて自分の手で抱えた。
なんで晋に『好き』が言えなかった?
恥とかプライドとか……
今までの姉貴面とかキャラとか……
本当はそんなんが理由じゃない。
私は晋に甘えていた。
晋に好きだと言ってもらえる心地好さにぬくぬくとしていただけなんだ。
私は晋の気持ちに甘えていた……ただの意気地無しだった。
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