参考と実験
参考と実験
◇◇◇◇
「私には幼なじみがいないからなぁ…。小学校、中学校と二回ぐらい引っ越ししたし、今は接点もなくなっちゃったし。幼なじみの普通の距離感と言われても……」
杏里に聞いてみたけど、何の参考にもならなかった。
テストも終わって、大学の講義室で夏休みの遊び計画を立てる予定だったのに、話が脱線した。
…させたのは私だけど。
「んー…でもどうしたらいいのやら」
「普通にしてたらいいじゃない」
「その普通が思い出せないんだって!!」
二人で話していると、別の友達二人も私達がいる席までやってきた。
夏休みに遊ぼうと約束していたメンバーだ。
「何々~?何の話?」
マスコットキャラのような癒し系・メグが聞いてきたことに対して、杏里は「幼なじみの話」と簡潔に答えてくれた。
どちらかと言えばサバサバしているオーちゃんがメグと一緒に私の前の席に座った。
「へー?アン達、幼なじみいんの?」
「私はいない。いるのは比奈子だけ」
そんな会話の中、めぐがニッコリ笑った。
「私もいるよー、幼なじみ。」
メグの方にハッと顔を上げた。
「ど…どんな感じ!?」
「どんなって…普通だよ。お兄ちゃんって感じ。」
「お兄ちゃん?」
「ひとつ年上なんだ。」
でもやっぱり幼なじみって小さい頃から一緒だから、兄弟って感覚は一緒なんだ。
一人で納得しているとオーちゃんがメグに向かってニヤリと笑った。
「でもさ、実際は兄弟じゃない親しい男なわけじゃん?異性として意識したり、いい感じになったりしないわけ?」
いきなり聞きたかった核心きたぁ!!
オーちゃんグッジョブ!!!!
私もメグの顔を見ながら、何度も頷く。
メグは可笑しそうにクスクス笑った。
「えー…そんな感じなのはとっくに過ぎてるみたいなもんだよ。」
「そんな…感じ?」
「別に二人っきりでも何もないし、」
「うんうん!!」
やっぱそうだよね!?
普通そうじゃないと可笑しいよね!!
一人真剣に聞いてる私をオーちゃんは不思議そうな顔で見てて、杏里はやれやれといった感じの顔だった。
「こないだも一緒に遊んでる内に一緒に寝ちゃって…」
「…ん?」
「でも別に何もないし。」
「一緒に寝るの!?」
「雑魚寝だけど。」
「寝るの!?ひとつ年上の!?男と!?」
私の叫びにオーちゃんが首を傾げる。
「あれ?ヒナも幼なじみいるんじゃないの?」
「いや…いるけど、そんなんしないよ!!」
「ふーん?仲良くないの?」
「いや…悪くない!!普通だよ。」
メグもメグで不思議そうに首を傾げる。
「え…おかしい?だって別に何も
大きく首を振った。
「しないしない!!眠くなったら『寝る!!』って言って、晋も侑も部屋から追い出すし!!」
「うーん…そっか。でも二人で出掛けたりとか…」
「ない!!」
「一緒にご飯食べたりとか…」
「ない!!あり得ない!!」
「えー…私が変なのかなぁ…。」
メグはうーんと唸りだした。
「まぁ、メグと違って比奈子はちょっと年が離れてるから、その違いもあるんじゃない?」
頬杖をつく杏里のフォローになんか納得と安心をした。
そうだよね。
一言『幼なじみ』って言っても色々あるよね。
メグもホッとしたように笑った。
「だよねー。私だけ変なのかと思って焦ったよー。」
「でもメグと幼なじみって仲良いんだね。」
「うん、仲良しだよー。一緒に寝る時は腕枕してくれるし。」
……は?
腕枕…だって!?
思わず立ち上がった。
「それは仲良すぎじゃないっ!?」
「そう?あ…でも代わりに私も
「ひざまくら!?いいや!!仲良すぎだって!?ホントに幼なじみ!?もう彼氏じゃなくて!?」
「でも兄弟みたいなもんだし…」
「いやいやいや!!私、弟の侑にだってしないよ!!そんなこと!!」
「しないの?私、従姉妹の女の子とかにも膝枕してあげるよ?」
オーちゃんはまた首を傾げる。
「あれ?ヒナ、弟と仲悪いの?」
「普通だよ!!!!!!!!」
晋に腕枕してもらう図を想像してみた。
あ り え な い !!
侑とでさえ想像しづらい。
もうそんなもん恋人じゃんか!!
兄弟越えてるじゃんかっ!!
…と、叫ぼうとしてピタッと止まった。
…待てよ。
もしかしたら、実はそれが幼なじみの距離感?
はっ!!
そうかもしれない!!
晋とは今までなかった物理的に近すぎる距離にビックリしてしまって、落ち着かなかっただけで…。
幼なじみって、実はそういうのも込みで普通なのかも!!
って、ことは…
これは慣れるしかない!?
メグがおかしいんじゃなくて、私達がおかしかったのかも!!
不思議そうに「ヒナちゃん?」と顔を覗き込んでくるメグの手を両手で掴んだ。
「ありがとう!!メグ!!参考になった!!」
杏里は眉をひそめて、こっちに視線を投げた。
「比奈子…言っとくけど、メグのとこも独特よ?」
「うんうん!大丈夫!」
「話聞いてる?あんた、また暴走しないでよ?一度頭で考えて、落ち着いてみてから行動を…」
「うん!!大丈夫!!任せろ!!」
「……ホント?」
杏里の不安もよそに私は一人で頷いた。
うん!!
なんか大丈夫な気がしてきた!!
◇◇◇◇
家へ帰って、自分の部屋で一人深呼吸をした。
少しずつ、最近の自分の挙動不審を治していく。
これが夏休みの目標。
今まで慣れてないのに、いきなりハグとかチューとか…びっくりするよね、そりゃ。
…って、幼なじみは普通チューしなくない?
それもメグに聞いとけばよかったと思いつつも、実行あるのみと結論を出した。
部屋を出てリビングに入ると、ソファーに座っている侑の後ろ頭を見た。
まずは侑かな。
腕枕……は初心者の私にはハードルが高いから、膝枕…のがまだマシかな?私的に。
さりげなさを装おって、侑が座っている前へ回り込んだ。
「あ…ヒナ姉。帰ってたの?おかえり。」
「…ただいま。」
侑が手に持っている冊子を見た。
「何?夏期講習受けるの?」
「もう申し込んだ。」
「へー、受験終わったのに…頑張るね。偉い偉い。」
「…?」
侑の左側が空いているのを確認。
…もう後は勢いだ。
出来るだけ速くない動きで私もソファーに座り、そのまま侑の左太股へと頭を乗せた。
…ぬ、寝心地好い。
コイツも意外に筋肉質だな。
ゆっくり見上げたら、侑が怪訝そうにこちらを見下ろしていた。
「……え、何?重いんだけど。」
そうは言うけど、私を退かそうとはしなかった。
お…、おー。
普通かも。
ちょっぴり怪しまれてるけど…
ホントだ、意外に普通。
だからそのまま侑の膝の上に頭を置いた。
「あはは、楽チン楽チン!!」
「…ワケわかんねぇ。」
なるほど、こういうことだ。
姉弟なのだから、当たり前か。
それに…
いきなりなのに膝枕をしてきた私を無下に追い払わない侑が、多分いい子なのだ。
思えば、姉の突然なワガママや八つ当たり(例:無理矢理シュークリームを買いに行かせる)にも、ちゃんと対応してくれてきたのだから…。
「侑…あんたよくグレなかったね。」
「何?いきなり…マジで。」
「侑がいい子に育ってくれて、姉ちゃんは嬉しいよ。」
「はいはい、どうも。」
侑はそのまま夏期講習の要項に目を通していった。
膝枕…普通にできた。
これなら…
その時、インターホンが鳴った。
音に反応して起き上がった私はそのまま受話器を取った。
「はい。」
『あ、比奈子?侑もいる?』
晋の声だ。
私は唾を飲んだ。
本番はこれからだ。
私は「侑もいるよ」と返事をする。
「おじゃましまーす!!」
晋はいつものように我が家のごとく入ってきた。
侑は自分の部屋に入っていき、荷物を持って出てきた。
「晋……悪いけど、これから俺は塾」
「うぇっ!?マジで!?」
「おぉ、悪いな。」
「…えー。でもタスク、夏休み入ってから塾ばっかじゃねぇか」
晋はしょんぼりと項垂れた。
そんな晋に、侑は軽くポンポンと頭を撫でてやった。
…どこのカップルですか?
「21時半ぐらいには帰ってくるから、それまで好きにしとけば?」
侑の言葉に晋がこっちを見た。
ちょっぴり緊張が走る。
「比奈子はどっか出掛ける?」
「え…う…え、…うぅん。」
首を振る私の返答に晋は満足そうに笑顔を見せた。
「んじゃ、比奈子と一緒に待ってる!!」
…マジか?
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