ビンカとピーチ

ビンカとピーチ


◇◇◇◇



「比奈子ー!!」



帰宅途中、エレベーター前で、またしても晋と鉢合わせ。


制服姿の晋を見て私は笑った。



「謹慎解けて良かったね」


「何週間前の話してんの!?とっくの昔!何だったら夏休み直前で学校終わるよ?」



晋はケラケラ笑いながらエレベーターの上ボタンを押して、ふいにこっちを見た。



「なんか久々だね?」



その言葉にビクッとした。


意図的に避けていたわけじゃないのよ!!


っていうのも白々しいかなとか…色々考えて、すぐに言葉が出なかった。



「し、晋こそ、最近顔見せなかったから」


「ん~、まぁ色々と忙しかったから~。文化祭の準備とか」



晋は何事もなかった顔をして笑っている。



我慢しないとか覚悟しろとか言ってた割に何も変わっていない…むしろ会ってなかったし。


何よ、好きとか嘘なんじゃない?


そんなことを考えながら、エレベーターに乗り込んだ時にハッとなった。


ってか、これじゃあ私が拗ねてるみたいじゃん!?


こんなん考えてる時点で私のが意識しすぎ!?



晋は私の葛藤なんて気付きもしないで鼻歌なんかしている。


若干恨みがしく隣の晋を見たら、気付いた。



「あ……れ、晋?」


「ん?」


「背、伸びた?」


「え……」


「ほんの……少しだけど」



晋はきょとんとしたあと、首を捻った。



「……わかんねぇ。春から計ってねぇし」


「まぁ……そうだよね」


「あ……でも!!比奈子!!」



晋に手を掴まれて、掌を合わせられた。



「ほら!!俺のがおっきい!!」



全身が硬直した。



「多分、まだまだ伸びるよな?」



私の心臓はまた異常になった。


晋の笑顔に。


私より大きな掌に。



まただ。


また、こないだみたいに…



顔が火照る前に俯いて、手を離した。



「よ…よかったね、伸びて……」


「おぉ!!」



エレベーターは私達の階にようやく辿り着いて、私はすぐに出た。


あんな狭い密室にいたのがいけなかったんだ。


…多分。



だけど、晋が後ろから着いてくる。


お隣なんだから、当たり前なんだけど…。



「……比奈子」


「……何?」


「……なんか今日の比奈子、いつも以上に可愛く見える」


「バ…、バ…バカじゃないの?」



赤くなった私はそう言い返すのが精一杯。



「比奈子」


「何!?」


「好き」


「…ーッッ!?」



無邪気な笑顔とストレートな言葉は今日も健在。



キミの幼なじみが


キミの虜になるのも


時間の問題?




〜一章 完〜


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