第5話
餌取聡は自分をそれなりに強い男だと思っていた。
大抵のことは持ち前の腕力と、幼き頃より修行してきた対魔の力でどうにかなってきたから、自分一人で解決できないことなどこの世にないと過信していた。
だが、つい先日、仕事ではじめて大きなしくじりをした。
人に害を及ぼす妖怪を祓ってほしいと言われて現地に赴き、いつも通りに仕事をしていたら、現地の住人にいきなり背中を刺された。後から話を聞けば、妖怪に操られていたらしい。それで集中が切れて、祓っている最中の妖怪に反撃され、左目を持っていかれた。
どうにかその妖怪は退治できたが、左目を失くしたことで餌取は自分の過信を思い知り、考えを改めることにした。
──俺一人じゃダメだな、盾がいる。いざとなれば矛にもなるような盾が。
それで、強そうな妖怪、もしくは神がいたら使役しようと考えていたのだ。
今回の件で、目目を唆した祠に封じられていた神、いや邪神に出会えたのは、餌取にとって何よりの幸運だった。
そんなもの、使わない手はない。
祠を壊した人間はどうせ助からないのだから、その死体を神を封じる器にしようと話を聞いた段階で思っていた。だが、断られる可能性も十分にあったから、本人が死後の扱いに対して諸々同意してくれて、餌取としては彼女に頭が上がらない思いだ。
「君との約束は必ず守ろう。無事に成功したら、休む暇もないくらいこき使って苦しめるから、安心してほしい」
餌取はその言葉を、命ある限り守るつもりだ。
依頼主たる老爺に後のことを任せて、目目と共に帰る餌取の足取りは、いつもよりも軽かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます