第5話

 餌取聡は自分をそれなりに強い男だと思っていた。


 大抵のことは持ち前の腕力と、幼き頃より修行してきた対魔の力でどうにかなってきたから、自分一人で解決できないことなどこの世にないと過信していた。

 だが、つい先日、仕事ではじめて大きなしくじりをした。

 人に害を及ぼす妖怪を祓ってほしいと言われて現地に赴き、いつも通りに仕事をしていたら、現地の住人にいきなり背中を刺された。後から話を聞けば、妖怪に操られていたらしい。それで集中が切れて、祓っている最中の妖怪に反撃され、左目を持っていかれた。

 どうにかその妖怪は退治できたが、左目を失くしたことで餌取は自分の過信を思い知り、考えを改めることにした。


 ──俺一人じゃダメだな、盾がいる。いざとなれば矛にもなるような盾が。


 それで、強そうな妖怪、もしくは神がいたら使役しようと考えていたのだ。

 今回の件で、目目を唆した祠に封じられていた神、いや邪神に出会えたのは、餌取にとって何よりの幸運だった。

 そんなもの、使わない手はない。

 祠を壊した人間はどうせ助からないのだから、その死体を神を封じる器にしようと話を聞いた段階で思っていた。だが、断られる可能性も十分にあったから、本人が死後の扱いに対して諸々同意してくれて、餌取としては彼女に頭が上がらない思いだ。


「君との約束は必ず守ろう。無事に成功したら、休む暇もないくらいこき使って苦しめるから、安心してほしい」


 餌取はその言葉を、命ある限り守るつもりだ。

 依頼主たる老爺に後のことを任せて、目目と共に帰る餌取の足取りは、いつもよりも軽かった。

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