第3話:過去

「はぁー疲れたぁー」

「やっぱり”あれ”使ったら疲れるな」

 クレアは近くにあった洞窟までカイを運び、そこで休息をとっていた。

「ん、ここは?」

「おっ、目覚めた?」

「っ!クレ……!」

 クレアが生きていることを再度認識したカイは喜び、飛び起きようとするがクレアに止められる。

「あぁ、もう一応、怪我人なんだから安静にしてなさい」

 クレアは興奮気味のカイをなだめ横に戻す。

「あ、あぁわかった」

「はい、よくできました」

「水でも飲んで冷静になりな」

 そう言い、クレアはバックから水を取り出しカイに渡す。

「ほい、カイが助けた人たちが、お礼にって渡してくれた水だよ」

 水を一気に飲み干したカイは一度冷静になり、再び横になった。

「にしてもあんな大けが負ったのに動けるんだね」

「確かにそうだな。それにさっきまでの激痛が心なしか和らいでる」

「(これも魔物であるディノが体の中にいるからなのか?)」

 腕の骨と肋骨が折れ、血反吐を吐くほどの大けがだったのにも関わらず、痛みがなく動ける自分にカイも疑問を抱く。

「まあいいや、何事もなくてよかったよ」

 クレアはカイが無事なことを満面の笑顔で喜ぶ。

「ああ、俺もクレアが生きていて一安心したよ」

 カイはクレアの笑顔に対し自身も笑顔で返した。


 短い沈黙が生まれ、少しするとクレアがどこか弱弱しい声で話し始める。

 「あのさ、私、カイのことが怖くて逃げだしたって言ったじゃんか。私、地底から出てきた魔物が君の姿になるところをさ」

「しかもその時のカイは別人みたいに豹変してて、もしかしてどこかおかしい人、危険な人なのかもって怖くなっちゃんたんだ。ごめん」

 カイはクレアの謝罪に対して冷静に返す。

「クレアが謝ることなんて何もない。俺が同じ状況にいたら間違いなく俺も逃げ出してるよ」

「むしろ、なんでまた俺のそばにいてくれるんだ?もしかしたら、俺が凶悪な魔物でクレアをだまそうとしている可能性だってあるだろう。なのになんで」

 カイはクレアの心情に寄り添いながら、どうして自分では絶対にしないようなことをしているのか尋ねる。

「んー、いやさ、私、目を見れば相手が嘘ついてるか本心でいってるかなんとなくわかるんだよね。家が貧乏でよく人から騙されそうになったからそのせいかな」

「魔物の群れと戦ってる時の、君の目にあったお姉さんを助けたいって想いに嘘はなかったし、だから、信用してみたいなって思ったんだ。それが理由かな」

「だから、これからもよろしくカイ」

 クレアは笑顔でそう答えた。その笑顔にカイもどこか救われたような気分となった。

 「そうか。それならせっかくだしクレアにも話すよ、あの魔物の姿が何なのかとか、こいつ(ディノ)に教えてもらったここ(ダンジョン)についてのこととか。これからも俺についてきてくれるなら遅かれ早かれ知ることだろうし」

 カイはディノについてや、ダンジョンがどういうものなのかや魔物について、特殊な力スキルのこととそれを発現させる魔石についてのことなどをすべて話した。

「へぇ~星のエネルギーを吸う植物かぁ。すごいこと知っちゃったな~」

 クレアはその情報に驚きながらも、カイの言うことを疑おうとはせず真剣に聞いている。

「じゃあ私がカイを助けた時に使ったやつもスキルってやつなのかな?魔石が付いたネックレスの元所有者私だし」

 そういうとクレアはカイの言っていた方法で自身のスキルについて調べ始める。

「”<閃光>視認できないほどの超高速移動が可能だが、使用中は呼吸することができない上、長時間使用すると使用後に全身へ痛みが走る”っか。だからあれ使ったらすごく疲れるのかぁ~」

 クレアが自身のスキルに感心しているとき、カイはある疑問を投げかける。

「なあ、もともとこの魔石のついたネックレスはクレアの母さんがもっていたものなんだよな、どういう経緯でクレアが持つことになったんだ?そしてそのネックレスを売った商人のことについては何か、知ってるいるのか?」

「ッ……」

「クレア?」

 それを聞くと唐突に黙りだしてしまい、数十秒間の沈黙の後、重い口を開いた。

 「ええっとまあ、とりあえず商人のことについては何も知らない。私は買った場にいなかったし」

「そしてネックレスはさ、母が魔物に襲われて亡くなった際にもらったんだよね」

「えっ!?」

 予想だにしていなかった返答にカイは驚いた。

「大体5年前くらいかな、私の家って父親いなくて母と私と妹、弟の4人暮らしだったんだけど、私が仕事から帰ってきたら魔物に家が襲われててさ、母はその魔物に殺されたんだよね。幸い、襲われたのは母だけで妹弟は無事だったんだけどさ」

「それで母の遺品としてもらったのがそのネックレスなんだ」

 クレアは苦笑いしながら答えた。

「そんな大事なものをその日あっただけの俺なんかに渡してよかったのか?しかもパン1つで」

「いいよ別に。もともと母さんとはあんまり仲良くなかったんだよね、よく暴力振るわれたり、録にご飯くれなかったり、私が稼いできたお金勝手に自分のために使ったりとかでさ」

 声は明るいが表情が少し暗い状態でクレアは話を続ける。

「そのネックレスも母を思い出したくなかったから売ろうと思ったんだけど、ただの変な色の石ころにしか思われなく誰も買ってくれなくて、仕方なくつけてたんだ。だからあんまり気にしないで」

「そっそうか……」

 カイはクレアの家庭環境を初めて知り喉が詰まる。

「今がそんな状況だからさ、まだ小さい妹弟を食わせてやるために、給料のいい調査員になりたいんだよね私」

「ッ!?」

 それを聞いたカイは少し考えた後、話し始める。

「もしそれが、クレアが調査員になりたい理由なら俺は心配だ」

「ん?なんでさ?」

「一瞬、姉さんとクレアを重ねてしまったんだ」

「え、どういうこと?」

「俺は4歳くらいのころに両親を火事で亡くして、それからは年の離れた姉さんと2人で暮らしていた。姉さんも今のクレアのように家族である俺が食っていけるようにと、ギルドの調査員になった。そしてダンジョンないで行方不明になった」

「家族のため、誰かのために危険を冒すクレアがどこか姉さんと重なって見えたんだ」

「なるほどね~」

 クレアは落ち着いた声でカイに話しかける。

「ねえ、お姉さんってどんな人だったの?」

「っ?そんなこと知ってなんになるんだ?」

 予想していなかった質問を聞き、驚くカイに対し、クレアは明るい声で質問の答えを要求する。

「いいから、いいから、教えてよっ」

 カイは突然の質問に困惑しながらもクレアの質問に答える。

「とても優しくて、強くて、いい人だった」

「ふーん。例えば?」

「俺が、姉さんと山に山菜を取りに行ったとき、俺が熊に襲われたことがあったんだ」

「うんうん」

「恐怖で動けない俺を守るために、顔に一生残るほどの深くて大きな傷を負いながらも熊と戦って助けてくれた」

「他にも、俺が重い病気にかかったときは治るまでほとんど寝ることなく看病してくれてたり、仕事でいそがしいはずなのに俺に毎日勉強を教えてくれたりで、ほんとうにすごい優しくて強い人だった」

「だけど他人の苦しみには誰よりも敏感なのに自分が味わっている苦しみにはすごく鈍感な人で、よく仕事で怪我をさせられたりしていた。そんな人だった」

「俺はクレアに調査員になるのをやめろとか言う権利はないし、とやかくいうつもりはないが、今のクレアはどこか姉さんと重なって見えて心配だ」

「……そっかー」

 クレアは真剣な顔でカイの話を聞き、少し沈黙してから話し始める。

「カイのお姉さんがほんとうにすごくいい人なのは理解した。それと同時に確信したことが1つあるよ」

「なんだよ、その確信したことって」

「私はカイのお姉さんとは全然似てないってこと」

「は?」

 わけのわからないことを言うクレアにカイは困惑しながらも、クレアの話を聞き始める。

「私は他人の苦しみに特に敏感でもないし、命はって誰かを助けられるほど根性ないし、痛いときや苦しいときはしっかり声に出して言うよ」

「カイの言う家族の部分も、確かに妹弟のためって一面もあるけど、自分は母親のような人になりたくないっていう気持ちが大きいのもあるし。善意100%で動けるほど私はいい人でも優しい人でもない」

「君は私とお姉さんを重ねてるのかもしれないけど、私からしたら全然似てないし、まったく重ならないから別に心配しなくても大丈夫だよ」

 クレアはカイに笑顔でそう言った。

「ふっ、確かにそうかもな。言われてみたら全然似てないや」

 カイはその顔につられ思わず自分もクスッと笑ってしまった。

 2人はお互いの反応に笑いあい時間が過ぎていった。


「って、もう夜じゃんか」

 辺りは暗くなっており、すっかり日が沈んだ後であった。

「よしっ、明日を乗り切れば試験は終わるし、明日に備えてもう寝よっか。固い岩を布団代わりにでもしてね」

「ああ、そうだな」

「(姉さん、俺はいい仲間に会えたよ。いつか紹介するから生きて待っていてくれ)」

 カイはそう心の中でつぶやくと深い眠りについた。

 

「はぁ~くっそ、2人だけの世界に入ってたせいでまったく話に入る隙がなかった」

 カイが寝た後、ディノは一人で愚痴をこぼしていると、突如、謎の黒いローブを身にまとった4人組の男がこっちへ近づいてきているのを見つける。

「なんだ、あいつら」

 4人組はカイへ近づき、彼を持ち上げ、歩き出した。

「おいッ!何しやがる、おいカイ起きろなんか連れて行かれそうになってるぞ、おい!」

 ディノは頭の中で叫び続けるがカイは睡眠薬でも盛られているかのような深い睡眠で起きることはなかった。

 

 翌日、ギラギラとまぶしい日差しがクレアを夢の世界から連れ戻す。

「ふぁ〜おはよ〜カ……イ?あれ?カイは?」

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ダンジョンに魔物はつきもの 茂頭九太郎 @TibaEI3513

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