第2話

お店の中は、制服を着た店員とそれ以外の人が多くいたが内装は清潔感がありきちんと管理されているようだ。


来客に気づいた人たちは、見慣れない少女をじっと見る。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。」


おそらく店員であろう小太りでちょび髭を蓄えた小綺麗なおじさんが、出迎えてくれた。微笑みを浮かべた表情からは少し気の弱そうな雰囲気が伺える。


「こんにちは。」


エレノアは、パッと笑顔を咲かせ子供っぽく挨拶をする。


(((((かわいいっ!!)))))


おじさんんはもちろん様子を見ていた人たちも全員が同じことを思った。エレノアの笑顔を正面で受けたおじさんはほんのり顔を赤らめもじもじしている。


「今日はどうしたのかな?」

「えっと、買取をして欲しいんです。」

「買取かい?それじゃあ、奥のカウンターに来てくれるかな?」

「はい。」


言われた通り、おじさんの後について行く。店内を見渡すと、商品は壁側に少し置いてあるだけであとは奥にカウンターがあるぐらい。客層はまばらだが、街で見かけた剣など所持しているような人も見受けられる。カウンターでは店員とその人たちが何やらそれぞれやりとりをしていた。


エレノアはずっと持っていた箱を置き、蓋をあける。


「これなんですけど、買い取れますか?」


緩衝材として詰められた紙と真ん中にある布で包まれた物を取り出し優しく布を剥がす。


小さな手の中に炎の赤、深海の青、深緑の緑と色とりどりの宝石で装飾されたブローチが色褪せることなくキラキラと存在を現す。


その美しさはまるで、昔の思い出を照らしているかのようだった。


「これはまた随分と珍しい物だね。お嬢ちゃんこれ、どうしたんだい?」

 

ほほうとちょび髭を撫でながら、エレノアとブローチを交互に見る。怪しむのも無理はない。


見た目10歳もいかないぐらいの小娘が値段をつけることが難しい程の高価なブローチを売ると差し出したのだから。


少しだけ昔のことを思い出し笑顔が消える。


「これは……大切な人から貰ったんです。生活に困ったらこれを売れって。私がいた村にはこんな高価な物買い取ってくれるところが無くて…」


ふと、おじさんを見ると目を潤ませている。その様子を横のカウンターにいた男が横目で見てきたが、その視線はすぐに外れた。


「辛いことを聞いてしまったね。ごめんよ。」

「いえ、大丈夫です。」

 

微笑むと涙は引っ込みたちまち頬を赤く染める。


「じゃあ、さっそく鑑定してみようか!」


おじさんはポケットから金色のルーペを取り出し、宝石を一つひとつ丁寧に観察し始めた。しばらくして、ほぅとなまめかしい溜息を溢し、おじさんはエレノアを見て、真剣な表情で話し出しす。


「素晴らしいよ。設置されている宝石はどれも一級品、さらにはそれを際立たせるよう細工された周りの装飾がとても繊細で美しい。正直、値段をつけるのが難しい。お嬢ちゃん、本当に、買い取ってもいいのかい?」


カウンターに置かれた小さなブローチを見つめる。


「はい、お願いします。」


(もう、いいだろう。あの子ならきっと許してくれるでしょう…)


「分かった。じゃあ、手続きするから2階の部屋に案内するね。さぁ、おいで。」


カウンターの隣には2階へ続く階段があり、上がってすぐの部屋に案内される。部屋にはテーブルと長椅子が2つだけのシンプルな作りだった。


「座って待っていてね」


エレノアとブローチを残し部屋を出て行った。扉が閉まるのを見て、遠慮なく長椅子に身を預ける。ふわっと身体が沈んでいき、自然と溜息が溢れる。


(これからどうしましょうか。…魔法陣を復元するか?でも、確実に戻れる保証もありませんし。ここに留まっていろいろ見てまわるのもいいかもしれませんね。)


しばらく一人で考えていると、扉がノックされ反応したエレノアは背筋を伸ばす。部屋に入ってきたのは、先ほどのおじさんと重たそうな袋を持った青年だ。


「お待たせ、お嬢ちゃん」

 

おじさんはエレノアが座っている向かいの長椅子に腰をかけ、青年は袋をテーブルに置きおじさんの後ろに立つ。彼は終始無表情でこっちを見ている。何を考えているのか読めない。制服を着ているから店員だということだけ分かる。


「あっ、彼はねここの店員でタオって言うんだ。とても良い子で賢い子だから、この街にいて困ったことがあったら彼を頼ると良いよ。それと僕の名前はエンテ。普段は隣のザイデ王国にあるこの店の本店にいるんだ。」


エンテと名乗ったおじさんは3箇所の国に店を構えている商店のオーナーだそうだ。


「エンテさんにタオさん、私はエレノアと言います。エリーって呼んでください。」

「エリーちゃんかぁ、可愛いな。」


惚けた顔をしながら呟いていると、背後からタオの鋭い視線がエンテの背中に突き刺さる。それに気づき、びくりと体を震わせてから、姿勢を正し商人の顔に戻る。


「それで、このブローチなんだけど、買取金額は金貨200枚と銀貨80枚でどうかな?」

「金貨、200枚……。」


思わず口からこぼれ、テーブルに鎮座する目の前の袋の存在感が増す。十分過ぎる。


これならしばらくはお金に困らないだろう。


「安かった!?」

「いえ、大丈夫です。それで買取お願いします。」

「それじゃあ、交渉成立ということで、念の為お金の確認をお願いね。」


後ろに立っていたタオがお金が入った袋を開け、手際よく数えていく。テーブルの上にどんどん10枚ずつ重ねられた金貨が置かれていく。


最終的に金貨が20個、銀貨8個のタワーできた。


「大丈夫です。ありがとうございます。」

「こちらこそ。お金は量もあるし重たいけど、空間魔法の付いた鞄か何かあるかい?」

「空間魔法?」

 

聞き馴染みのない言葉に、思わず首を傾げる。

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