第3話

「空間魔法というのは、大昔に偉大な魔法使いが生み出したものさっ!」

「鞄やリュックに空間魔法を施すことで、大きさ問わず多くのものを入れて持ち運ぶことできます。ただし、容量はその者の魔力量に比例していますが。」

「冒険者や僕達商人にとっての必需品さ!でも、この魔法が一般的に使えるようになったのは、つい最近なんだよ。」

「およそ20年前までは、王族や貴族など高貴な方しか使用が許可されなかったのです。」


興奮気味のエンテに代わってタオが説明をする。


「もし、持っていないのらうちでも取り扱っているから見てみるかい?」

「ぜひお願いします。…あ、あとナイフとかも取り扱ってないですか?薬草を刈り取るのに欲しくて。」

「もちろんあるとも!品揃えが豊富で自慢のビーネ商店だからね。品質も完璧さ!」


話を聞いたタオは、商品取りに部屋を後にする。2人取り残され沈黙が流れる。先に口を開いたのはエレノア。


「あの、さっき言っていた冒険者ってなんですか?」

「そうだね、一言で言えば、何でも屋さんかな。冒険者はギルドに登録して色々な依頼をこなすんだ。剣や杖など持っている人を見かけただろう。彼らが冒険者さ。」

「この店にも、いっぱいいましたね。」

「うちの店では、魔物の素材の鑑定や買取をしているからね。ギルドは薬草を買い取ってくれるから、エリーちゃんも登録だけするならいいかも。」

「私でも、登録できるんですか?」

「出来るよ。ランクがあって子供は大体1番下のFランクだね。小遣い稼ぎで登録している子がいるよ。でも、王都の外に出て薬草を採取する時は気をつけるんだよ。一歩出てしまえば、魔物がいつ出てきてもおかしくない状況だから。」


話を聞きながら考え込んでいると、エンテが慌てふためく。


「ごっごめんね!怖がらせちゃったかな!関所を出てすぐのところだと憲兵もいて安全だから大丈夫だよ!」


怯えたように見えてしまったようで大丈夫だと落ち着かせていると、商品を持ったタオが戻ってきた。


「…何しているんですか。エレノアさんを困らせないでください。」

「うぅ、本当にごめんよ。そんなつもりはなかったんだ。」

「私は大丈夫ですので、商品見てもいいですか?」


エンテを睨みつけていたタオの表情が戻り、どうぞと商品を並べる。荷物を入れる用の物とナイフがテーブルに並べられる。どれも子供が使いやすいようなシンプルなものとなっている。


「どれも素敵ですね。」

「さぁ、エリーちゃん、好きなのを選んでおくれ。どれも自信を持っておすすめるよ。」


鞄はリュックや肩にかけるタイプのもの、ポーチが付いたベルトタイプといくつか用意されている。その中から迷わずベルトタイプのものを選んだ。これは実際に今、エレノアが着用しているものと似ているものだった。


「これにします。」

「そうかい、それはエリーちゃんには少しベルトが長いから調節をしようか。」

「いえ、このままで大丈夫です。」


女性用のようで今の自分には少し長い。しかし、そのほうがむしろエレノアにとっては都合がいい。今腰につけている物もベルト部分が余っている状態だ。


「じゃあ、次はナイフだね。実際に手に取ってごらん。持ちやすさとかもあるだろうし。刃の部分には気をつけるんだよ。」


言われた通りひとつひとつ手に取り、持ち手を握ってみる。どれも持ちやすくベルトのポーチもだが自分のために選んでくれたことを改めて実感する。エレノアは刃がしっかりしているものを選んだ。


「ナイフはこれに。とても気に入りました。タオさん私の為に用意してくれてありがとうございます。」

「気に入っていただけてなによりです。」


タオは満足そうに頷いた。


「あの、おいくらですか?」

「ん?お代はいいよ!僕からのプレゼントだと思っておくれ。」

「いえ、そんなの悪いです。沢山、親切していただいたのに。」

「大丈夫ですよ。この人、なにかと稼いでいるので。それにまた、このお店に来ていただけると僕も嬉しいです。」

「タオ、君がそんなこというなんt「黙ってください。」

「うっ……ごめんよ、怒らないでくれ。」


二人のやりとりを見てクスリと笑ってしまった。


「君が貰ってくれないとまた僕がタオに怒られてしまうよ。」

「…では、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます。今度必ずお店に伺いますね。」

「はい、いつでもお待ちしております。」


タオの表情が軽く緩み、エレノアに対して丁寧にお辞儀をする。


その姿を見たエンテはひどく驚いた。


(あのタオがここまで他人に心を許すとは。珍しいことがあるもんだな)


「あの、ポーチにお金入れてみてもいいですか?」

「もちろん!取り出したい時はそれをイメージすると簡単に取り出せるからね。」

 ポーチを覗き込むと特に変わった様子はなく、手に入れたお金を入れていく。次にナイフ。そして、元々持っていたポーチに入れてある木の実も一緒にポーチの中へ。


(これは、すごい。どういう仕組み?どんどん吸い込まれていく)


しばらく、出しては入れを繰り返す。この世界にはエレノアが知らない魔法がまだまだ沢山あるのかもしれない。

1階へ降りると、冒険者の客が増えていた。おそらく依頼から戻ってきた人達なのだろう。


「これ、とても便利ですね。」

「ふふ、喜んでもらえたみたいだね。」

「これからどうするんですか?」

「そうですね…。しばらくはこの近くをいろいろ見て回ろうと思います。冒険者ギルドも気になりますし。」

「そうですか、くれぐれも気をつけてくださいね。では僕はここで失礼します。」

「はい、ありがとうございます。」

 

タオはそのまま他の客の元へ行き、しばらくしてすぐにその男と揉めているような声が聞こえてきた。


「私もそろそろお暇させていただきます。エンテさん本当にありがとうございました。」

「こちらこそ。もし、いつかザイデ国に来ることがあったら、そっちの店にも遊びにきてね。じゃあね、エリーちゃん!!」


まるで今生の別れかのように、涙で潤ませた目に白いハンカチを当てて手を振る。お辞儀をしてドアノブに手をかる。


カランカランとベルが今度はエレノアの退店を知らせた。







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