第3話 信用

 予定の17時になった。


 外はまだ明るく、部活動をしている声が微かに聞こえてくる。




 生徒会の仲間たちは予定通り生徒会室へ集まった。


 僕は予定よりも早めに集合場所にいた。




 雫は仲間の人たちに、今後について話した。




 「みんな、集まってくれたわね。さて、今後について個別で考えてきたと思うわ。そのことについて話し合う時間が来た。さっそくだけど投票を始めるわ」




 集まってすぐに投票が始まった。待ち時間さえ与える暇もなく。




 「解散する前に『全員一致が条件』と言ったわ。だから、この世界について知りたくないと思った人が一人でもいれば、現状はミッションをしないということになるわ。では、始めましょう」




 僕はこの世界、そして過去の記憶が知りたい。だから、賛成の票に入れる。反対の票に入れる理由がない。


 だが、一人でも反対がいた場合、今後どのようになっていくのだろうか。


 知りたくないと思っている人もいるかもしれない。




 例えば、僕が来る前に個人メッセージに何かしらのヒントがあったり。


 僕にはわからないことが起きていたかもしれない。


 今は投票結果次第でそれを受け入れなければならない。


 


 「今後この世界を知るために、ミッションを進めていく人は挙手を」




 雫が仲間に投票をするようにいった。




 一斉に挙手するわけではなく、みんなバラバラにゆっくりと手が上がっていった。


 僕もその一人だ。


 周りを気にしてはいるが、そんなことは関係ない。この世界、記憶を知りたい。迷わずに手を挙げた。




 周りを見渡すと意外にも反対するものはいなかった。


 僕の予想では、凛、海、優奈あたりが手を上げないと思っていた。だけど、予想は違っていた。


 僕の中では良い意味で、予想を裏切っていた。




 「全員挙手ということで、全員一致の賛成で良いわね。それは、これからのことについて話していくわ」




 雫は今後のことについて話そうとしたら、非通知からメッセージが届いた。




 「これはどういうことなの!?なぜこのタイミングでメッセージが送られてくるの…」


 


 凛が少しパニックになった。それを落ち着かせるかのように、はるは凛の背中を摩った。


 数分間、そのような状態が続いてようやく凛は落ち着きを取り戻した。




 僕はその間、送られてきたメッセージを見ることにした。




 『君たちが望んでいる知りたい情報。この世界に来た理由、過去の記憶がない状況。それを君たちに教えてあげよう』


 


 このメッセージの送り主は一体誰だ?


 ここにいる仲間が送っているのか?


 でも、そのような素振りは今日はなかった。それぞれ誰かしらそばにいたのだから。




 メッセージを見ていくと、続きが書いていた。


 


 『明日、球技大会が行われる。そこに参加をして優勝をすることが条件だ。達成すれば一部の記憶を各自に与えよう。それから、この世界についても教えてあげよう。以上だ』


 


 記憶?


 それって、ここに来る前の記憶だよな?


 それと、この世界についても教えてもらえる…


 


 「凛ちゃん、落ち着いたかしら?横になって。今準備してくるから」




 はるが凛を見ている間、凛が横になれるようにソファーに枕とタオルケットを用意していた。




 こうしてみると優奈は頼りになるお姉ちゃんって感じだな…


 怒らせたら怖いけど…




 そんなことを思っていると、ソファーの準備ができたようだ。


 はるは凛を支えて、ソファーへと向かった。その後、凛はソファーに寄りかかり横になった。




 雫も心配そうに見ていたが、優奈とはるのおかげで良くなりそうと思いながら見守っていた。




 「さて、改めて全員一致ということで、メッセージも見てもらったように、明日は球技大会が行われるわ。明日の球技大会はフットボールになっているわ。生徒会の特権と言ってもいいわ」




 「雫、なぜ明日の内容がフットボールとわかったんだ?メッセージに球技大会とあったから、この世界がそのように変えたのでは?」


 


 「利木くん、明日はね…実はもともと球技大会の日なのですよ!それで、球技は生徒会特権で決めれるというわけなんですね!」




 雫にしては物凄く、どや顔で言ってきた。


 さすが生徒会というべきか。




 「またなぜフットボールにしたの?」




 「簡単よ。生徒会の人数が少ないということで、数少ない競技でルールが簡単なフットボールにしたわけです」




 少人数、そしてボールを相手のゴールに入れればいい。難しいことはない競技だ。


 


 「今回は六人で試合をし、三チーム倒せば私たちの優勝よ。そのため、メンバーを決めなくてはいけないわ。当然、男子は全員出てもらうわ。これで三人は確保できた。そこに、私と七が出ることにするわ」




 予想はしてたよ。予想は。


 男子が全員出ることは、読んでる人もわかってたと思うよ。


 読んでもらってる人って誰だよ!




 まあ、今回の「焼きそばの入ってない焼きそばパン」の作戦で、僕たちは駆り出されたわけだし。


 今回も妥当だよね。




 雫の言葉を聞いた海は「またか…」と言わんばかりに、ガクッと肩を落とした。


 陣は嬉しそうにしていた。




 「雫…勘弁してくれよ…」




 海がぽろっと心の声が漏れて出た。


 それを聞いた吉久は、




 「海!僕も一緒にいるから大丈夫!頑張ろう!」




 吉久の自信は一体どこから来ているんだろう。


 いつも、元気いっぱいなのは良いことなのだけど、その…バカをするのでは?と思ってしまう。




 「吉久!お前も一緒に出るから余計に心配なんだよ!」




 それをみた陣は、また今回も楽しい時間ができると思いわくわくしてる様子。




 「海くん、またこの四人で遊べるから僕は嬉しいよ!」




 「陣…お前はなんでいつもそんなにも楽しめるんだ…そんなお前が羨ましいよ」




 意外にも海は陣に対して、接し方は優しいんだと聞いてわかった。


 


 「さて、明日からは球技大会が待っているわ。各自早く寝て備えなさい」




 雫も明日、参加することになっているのに…


 そう思いながら、僕は寝ることにした。




 凛は、はると優奈と一緒に寝ることとなった。凛のことが心配ということで共に寝ることになった。




 夜、雫は一人で屋上へと向かっていった。


 それを見かけた七は、雫の後を追うように屋上へ向かった。




 雫は一人、夜の星空を見ながら立っていた。


 その姿をみた七は雫に近づいた。




 「こんな時間に一人で星空を見上げているなんてどうしたのです?」




 七が雫に話しかけた。


 雫も同じことを思っていたようで、七に向かって同じように返した。




 「七も同じじゃない。こんな時間に屋上になんて」




 二人の時間が始まった。


 みんなが寝ている時間、二人は星空の下で話し始めた。それは今日、メッセージに送られてきた内容の事だ。 


  


 「今までは変哲もないメッセージにだった。だけど、今回は違う。私たちが知らない、この世界の謎を知るメッセージ。少なくとも利木くんが来てから、少なくとも何か変わろうとし始めてるわ」




 メッセージの内容は本当に変哲もない内容だった。


 例えば『明日の食堂のメニューは麻婆丼』『天気は雨』


 


 このように、どうでもいい事がミッションを達成すれば、個人で違ったメッセージが送られてきた。


 プラスになること、マイナスになること。人によって違ったのだ。




 「雫が言うように音野くんが来てから、少し世界が変わり始めようとした。それは真実。実際、音野くんが来るタイミングがみんなとは違った。それだけなら良かったが、いつものようにミッションを達成した時、全員のメッセージが一緒だった。内容も混乱を招くようなことが書かれていた」




 実際、凛はそのメッセージを見たとき、動揺を隠せなかった。しかも、パニックになっていた。


 今までいた仲間たちには唐突すぎる変化だった。非日常だったものを日常にしていった。その努力は雫によって支えられ、仲間たちは雫を頼るようになった。


 雫によって作られた。それが今の生徒会の仲間だ。




 七は雫にとってかけがえのないリーダーの存在。


 今まで仲間の為に先導していた姿を見ていたから。


 だから、今回の件は反対をする理由はなかった。




 「私は今まで雫が頑張っている姿をずっと見てきた。私にとってかけがえのない存在で、生徒会のリーダーに相応しいと思っている。だから反対をする理由は私の中ではなかった。今回の件をきっかけに、自分の事が知りたいと思った」




 雫に対する信頼を言葉にした。


 その信頼があったから、雫の前で話せたことかもしれない。




 七は続けて雫に今回、反対をしなかった理由を話した。




 「私は自分でまわりに比べると表情に出にくい。真面目だってわかっている。そんな私でも今の仲間たちは普通に接してくれる。私の憶の無いところで、どんな過去があったのか知りたい。雫がいる限りこの世界にいても良いとも考えた。けど、この世界が変わろうとしてるなら、私もこの世界、過去の自分を知りたいとね。ただの好奇心に過ぎなかったけど」




 雫は星空を眺めながらも、真剣に七の話を聞いていた。


 そこまで、私を頼りにしていたことに誇りを持っていいのかわからなかったが、七からの信頼がここまであるとは思ってなかった。


 ここまで私は仲間に信頼され続け、頼りにされていることに初めて実感が持てた。




 「私は普通のことを仲間にしたまでよ。それに、ここまで七から信頼されてるとは意外だったわ」




 嬉しそうな表情で七に言葉を返した。




 「私はね、誰もいない中で一人で藻掻いたわ。知らない人ばかりで、記憶もない、知らない世界。話しかけても、何も得るものなんてなかったわ。偶然にも生徒会の場所を見つけたわ。そこで一人、身を潜めていたわ。このまま、身を潜めていても得るものなんてなかったと思い、私はこの世界のことを知ることにした。図書室に行ったが何も得れない。人に話しかけても、得るものもない。それでも、一つ一つ地道にわかるもの、わからないものを知ることができたわ。そのおかげでみんなが来ても、冷静に対応することができたのよ」




 今までの経緯を七に話した。ここまで、深く話したのは初めてだ。


 七も深く話したのは雫が初めてだ。


 夜の星空の下で二人っきりということもあるだろう。話しやすい雰囲気だったのもあると思う。


 


 「七、私たちは明日は球技大会よ。今日はここまでにして、早く寝るとするわよ。この世界、記憶を知るためにもね」




 雫がそう言い出し、二人は明日の球技大会に備えて寝ることにした。

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