第17話 どうせこういうわたしだもんな⑥
「イツキ……?」
「な、なんだお前は! 部外者が入ってくるな!」
わたしは茫然とし、東條はちんこを萎えさせながら叫び────イツキは感情を宿さない冷え切った瞳でわたしを見下ろしていた。
そうだ、わたし、ほぼ裸だ。
恥ずかしくなって、わたしは腕で胸を隠した。
イツキはゆっくりと口を開く。
「念のため訊きたいんだけど、合意?」
「じゃない!」
わたしは即答した。そしていつの間にか拘束が緩んでいた上半身を起こし、東條を突き飛ばした。
「なっ、待て!」
東條はわたしに手を伸ばす。性欲に支配された頭は視神経を狂わせ、わたししか視界に映らなかったようだ。
彼の顔面に迫る足を。
「ぎゃっ」
情けない声を上げながら東條は頭からひっくり返る。走る奴に合わせ、イツキが顔面にキックをかましたのだ。
わたしがイツキの背中に回ると、彼女はわたしを庇うように後ろへ手を回した。
「だ、大丈夫かな? なんか伸びてるケド……」
「正当防衛でしょ。『急迫不正の侵害に対して』『自己又は他人の権利を』『防衛するため』だし」
ユウヤが我に返ったように立ち上がり、倒れた東條の元へ駆け寄る。
「と、東條さん! 大丈夫ですか……!?」
そして焦ったような表情をわたしたちへ向ける。
「叢雲……お前、なんで!」
「知り合った股の緩そうな女を事務所のお偉いさんに献上するって噂、本当だったんですね。先輩」
イツキは吐き捨てるように言った。
「地獄に墜ちろ。二度とハカゼに近づくな」
「お、お前に何の権利があんだよ、クソが!」
ユウヤはワックスまみれの髪をぐしゃぐしゃ掻きまわす。
「こ、これじゃあまた、おれ、おれぇ……うううううう」
彼の焦った表情はやがて自暴自棄な涙でぐちゃぐちゃに染まっていった。
「ちくしょおおおおお!」
拳を握り、叫びながらユウヤはイツキに向かっていく。わたしは無意識にイツキを庇おうと、前に出ようとした。
しかし、イツキに遮られる。
「い、イツキ! 危ない!」
「大丈夫」
ユウヤの拳がイツキに────
「こいつら全員お縄だから」
届かなかった。
「はい、どうしたの。お兄さん」
拳がイツキの眼前に伸ばされたまま、その場に留まった。ユウヤの身体も同じように動かなくなった。
『警視庁 POLICE』と書かれたベストの文字が目に入る。
二人の警察官が、ユウヤを羽交い絞めにしていた。
「お兄さん。落ち着いて。ちょっとお話聞かせてもらえるかな」
「は、離せ! 離せよ! おれが何したってんだよ!」
「危ないなぁ、もう。はいはい、座ってねー。はーい暴れなーい」
警察官に窘められて諦めたのか、ユウヤは魂が抜けたように脱力して、彼らにされるがままとなった。
「大丈夫ですか?」
背後から声をかけられる。女性の警察官だ。彼女はわたしに素早く上着をかけてくれた。
「お話は聞いてます。よく頑張りましたね。少しだけ、あったことを私たちに教えてくれませんか?」
彼女の凛々しく、そして温かな口調に、緊張していた心が急速に溶けていく。ぽん、と背中が優しく叩かれた。
イツキだ。
「大丈夫。私も付き合うから。遅れてごめん。あと……」
彼女は少しだけ目を逸らし────再び、まっすぐわたしを見つめた。
「昼間も、ごめんなさい。ハカゼを傷つけたよね。反省してる」
深く、頭を下げられ────る前に、わたしはイツキに抱き着いた。
「いいよぉ、もう! 全部! 許すし! ありがとぉお!」
わたしは人目も憚らず泣いた。
「わたしもごめんなさぁあい!! うわああああん!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます