ポンコツ悪魔の計画

海湖水

ポンコツ悪魔

 「あんたさぁ、なんか野望みたいなものないの?」

 「野望……ですか?」

 「そ、野望。なんかあるでしょ、悪魔なんだし。世界征服とか、人類の根絶とか」

 「わ、私は出来損ないなので、そんなことはあまり……」

 

 私の回答を聞いたカレンは、少し驚いたような表情を見せると、ソファに寝転がった。それを見ると、私も皿洗いを再開する。

 カレンに魔界から召喚されてちょうど一年がたった。

 魔界では出来損ないだのポンコツ悪魔だの言われていた私だが、悪魔として人間の魔術師に召喚されたときはたいそう喜んだものだ。

 というのも、魔術師に召喚され、契約を結ぶというのは、悪魔にとっては名誉なことだからだ。契約を結ばないと、一人前の悪魔にはなれない。そんなことを

学校で習うほど魔界では浸透している常識だった。

 私は召喚された時のことを思い出す。

 あの時の私は召喚された後のことは何も考えていなかったっけ。

 

 「あっ、皿洗い終わっちゃった。……今のうちに今日の晩御飯でも作っておきますか」


 私を召喚したカレンと結んだ契約は、カレンと共に暮らすこと、そして家の家事等を半分はすること。今では家事は殆ど一人でしているが。

 普通、悪魔が魔術師と交わす契約としては、あまりにも小さなものである。しかし、これにはわけがあった。

 というのも、カレンはモグリの魔術師だった。彼女によると、ご先祖様が没落した魔術師の分家みたいなところの出身だったそうで。カレンも少しだけだが力を持っているそうだ。

 そして、私の出自についても語らねばなるまい。私は、魔界の貴族の子供である……のだが、なぜか異常なほど親の力を継承しなかった。親から伝わった力は一切なく、悪魔と認められるギリギリの魔力量と、ごみ袋を一つ浮かせられたら涙が出るほどの弱い念力だけだった。

 そう、つまり魔術師と悪魔の双方に力がないのである。そのため、私は契約時に召喚者に流し込む魔力量を調整できないし、カレンもそれを拒めるほどの力がない。なので、強い契約を行うと、魔術師側であるカレンが魔力の過剰摂取で死んでしまう可能性があるのだ。

 冷蔵庫の中身を確認し、牛乳がないことに気づく。そういえば、前に使い切っちゃってたな。あとで買いに行かなくちゃ。

 野菜を切り始めると同時に、カレンがソファから起き上がった。いつもよりも昼寝が短いな。何かあったのだろうか。


 「あれ、洗濯終わったの?一年前と比べて随分家事ができるようになったじゃん」

 「カレンに教えてもらいましたから……」

 「まあ、今では私よりもできるようになっちゃってるけどね……ごめんね、家事を全部させちゃって」

 「ま、まあ、楽しいから大丈夫です!!」

 「そっか……あ、そういえば今日は出かけるから。夜には帰ってくるね」

 「え、そ、そうなんですか?……まあ夜に帰ってくるならいいか」


 初耳である。出かけるなら昨日にでも行ってくれればよかったのに。まあ、今日の私の計画には都合がいい。

 私は、野菜を刻み終わると、とりあえずカレンが家を出るのを見送った。

 早く晩御飯の用意を終わらせて、ケーキを買いに行かないと。私は玄関のカギを閉めると、台所へと戻っていった。


 

 今日は私が召喚されてちょうど一年である。そう、ちょうど一年である。私がカレンと出会って、ちょうど一年である。

 この日をお祝いするために、3か月前から計画してきたのだ。ケーキを予約し、お小遣いを貯め、カレンに気づかれないように色々と嘘をつき続けた。そして、カレンの実家でカレンの好物がハンバーグだという情報を入手、そしてカレンのお母さまのハンバーグの作り方を盗みだすことに成功。ふふふ、お母さまに頼んで教えてもらったかいがあったというものだ。


 「よし、ハンバーグの仕込みも終わった。ケーキを買いに行こう!!」


 カレンが帰ってくる前にケーキを買ってこなければ。カレンがなぜ出かけたのかは知らないが、すぐには帰ってこないだろう。


 「よし、お小遣いも持ったし、大丈夫!!カレンを驚かせるんだ!!えい、えい、おー!!」


 しっぽを隠しながら、私は家のドアを開けた。

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ポンコツ悪魔の計画 海湖水 @Kaikosui

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