1話 入部試験なんて知らない!


「どうしてこうなった……」


俺はさっきまでの面接での出来事を思い出した。


「AF部に入部するには、入学試験とは別に入部試験があります。その試験に落ちれば、筆記試験で合格点を取っても不合格となります。」

思わず耳を疑った。「入部試験」? 俺は面接官が伝えたことを思い出し、聞き返してしまった。


「入学募集要項に記載されていますよ。」


面接官の言葉が、胸に重くのしかかる。緊張感が高まる中、これから向かう場所で何が待っているのかを想像するだけで不安になる。


「本当に俺はこの試験に耐えられるのか……」


考え事をしながら歩いていると、視界の隅に黒髪の女の子が飛び込んできた。気を取られていた俺は、避けることができず、彼女とぶつかってしまった。


「痛っ!」


彼女は驚いてよろけ、俺も思わずバランスを崩す。衝撃で手が彼女の胸に当たってしまい、瞬間的に心臓が早鐘を打った。


「何してるのよ、あんた!」


彼女の声には怒りがこもっていた。その表情に圧倒され、俺は言葉を失った。


「ごめん、そんなつもりじゃ……!」


言い訳をしようとした瞬間、彼女は俺の頬に平手打ちを食らわせた。予想外の痛みに驚き、後ろに下がると、彼女はまるでゴミを見るような目でこちらを見ていた。


「最悪……死ねばいいのに。」


そう言い残して彼女は立ち去り、俺はその後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。心臓の鼓動が収まらない中、気まずい思いを抱えながら集合場所のグラウンドへと向かい、これからの試験に対する不安がさらに募るのを感じていた。


集合場所のグラウンドに集められた俺は、緊張した面持ちで周囲を見回す。約100人が集まっているが、その中には緊張感に満ちた表情の者や、余裕そうに笑っている者もいる。隣で小声で何かを話し合っている二人組や、緊張のあまり手を震わせている奴もいる。皆それぞれの思いを抱えているようだ。


その時、控えめで優しそうな雰囲気を持つ女性がグラウンドの中央に立ち、手を挙げて皆の注意を引いた。彼女は部の副顧問であり、穏やかな声で説明を始める。


「皆さん、今日は入部試験に来ていただきありがとうございます。私はこのAF部の副顧問を務めている小野寺郁おのでらいくです。これから試験の内容について説明します。」


彼女の声には温かみがあり、少し緊張していた気持ちが和らいでいく。周囲の参加者たちも彼女の優しい語り口に安心した様子で、ざわつきが収まる。


「まず、この試験はペアを組んで行います。隣にいる人とペアになり、合格者は上位5組、つまり10人が選ばれます。ペアの片方がやられても、もう片方が生き残っていれば大丈夫です。」


話を聞きながら、どんなルールがあるのか気になったが、特に複雑なものはなさそうで一安心した。


「競技の場所は水無月学園全体です。どこで何が起こるか分からないので、しっかりとペアの方と協力して戦ってください。」


その言葉に、緊張と同時に期待が膨らむ。ペアを組む相手とどんな戦いを繰り広げるのか、今から楽しみでもある。周りの参加者の中には、明るい表情でペアの人と喋る人や心配そうにする人もいて、それぞれの反応が試験への期待感を醸し出している。


小野寺先生は、最後に励ましの言葉を添えた。


「それでは、皆さんの健闘を祈っています。」


俺は隣にいる茶髪の少女と目を合わせ、緊張の中でこれから始まる試練に心を決めた。周囲のざわめきが少しずつ静まり、どんな相手と戦うのか、どんな試練が待っているのか、期待と不安が交錯していた。

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