旦那さま

第2話

「初めまして。日野冴と申します」

 先ほどと同じような挨拶だなと頭の隅で思いながら、頭を上げる。

「だれが、頭を上げていいと言った? 結婚相手の家に遅れてくるとはいい度胸だな」

「申し訳ございません」

 冷淡という噂は本当らしい。

 これが、数々の婚約を破棄してきた藤宮零(ふじみやれい)さまか……

 私はこの人に嫁ぐ。

「まあ、理由ぐらいは聞いてやろう。なぜ遅れた?」

「すべて、私の失態でございます。申し訳ございません」

 言い訳をしたくないわけではない。

 言い訳をする話術を持ち合わせていないだけだ。

「まあ、いい。許す」

「ありがとうございます」

「それで、お前が数々の婚約を破棄してきたという日野冴か?」

「……はい」

 そうだ。

 数々の婚約を破棄してきたのは私もだった。

「そうか。ここでは私の機嫌をそこねるようなことは絶対にするな。わかったな?」

「承知いたしました」

「おい、春(はる)。こいつを部屋へ案内しろ」

「かしこまりました」

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