【山本五十六】キスカ島を奪取せよ

「いよいよ、キスカ島が見えてきたか」



 それは、氷霧に覆われて、不気味な雰囲気をまとっている。山本五十六の行く末を暗示するかのようだった。



「悪天候が作戦の邪魔になりそうだ」山本五十六がつぶやくと、部下の一人が進言する。



「恐れながら申し上げます。ミッドウェー島での作戦のように、敵の視界は奪われているので、このまま零戦で爆撃してはいかがでしょうか」



「いや、そうはいかない。悪天候では、こちらの航空部隊にも不利に働く。アメリカ側はそれを利用して陸上戦に持ち込むはずだ。氷霧に隠れてゲリラ攻撃を仕掛けてくるかもしれん」



 氷霧。それは、敵味方どちらにも大きな影響を与える。山本五十六はこの氷霧を味方につけられることができれば、航空戦のみでキスカ島を陥落させられるかもしれないと考えた。



「氷霧、氷霧。待てよ、この作戦なら……。おい、君。偵察機に水を大量に載せて、キスカ島の敵基地上空に振りかけるように、航空兵に伝達を頼む」



 山本五十六の頭の中には、アメリカ軍を無力化させる作戦が出来上がっていた。





「順番完了しました!」



「よし、偵察機が水を振り撒き次第、順次零戦を発進させろ!」



「ちょっとお待ちください! 先ほど、氷霧が邪魔になると……」



「発想の転換だ。氷霧に水を振りかけて、地面を凍らせるんだ。そうすれば、アメリカ軍の動きを乱すことができる。その隙に敵を爆撃する、これが本作戦の趣旨だ」



「なるほど、それならば必ずや成功するでしょう」



「その言葉は勝つまで取っておきたまえ。戦いは勝敗が決まるまで、何が起こるか分からないからな」そう言う山本五十六も笑みを隠すことが出来ずにいた。





 数時間後、山本五十六たちが上陸すると、氷の地と化したキスカ島で足を滑らせるアメリカ兵という滑稽な光景が広がっていた。まるで、初めてスケートをした子供のように。



 山本は静かにその光景を見つめ、風に混じる氷霧の冷たさを感じながら、つぶやいた。



「勝つためには何でも使う。自然であろうと、策であろうと……」



 その時、通信兵が駆け寄ってきた。「山本長官、無線通信が入りました! 『アメリカ本土の都市ロサンゼルスを攻撃せよ』との命令です!」



 山本は冷静に頷き、キスカ島の氷霧の向こうに広がる次なる戦場を見据えた。



「いよいよだ……次はアメリカ本土か」



 彼の目に、一瞬の覚悟と決意が浮かんだ。

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