【井上成美・南雲忠一】ソロモン諸島での激戦①
「ソロモン諸島はいくつもの島で構成されている。また、サンゴ礁に囲まれており、浅瀬である」
井上は次の目的地について、部下から上がってきた情報に目を通していた。
「また、浅瀬での戦闘か……」
「浅瀬であれば、オーストラリアでの作戦を再度行ってはいかがでしょうか」報告書を持ってきた部下が進言する。
「それはダメだな。ダーウィンは港町で、敵艦隊が少なかったからこそ出来た作戦だ。今度は敵の防御が分厚い。大和の主砲で水深を深くしているうちに、こちらが撃沈されかねない」
そう、それこそがソロモン諸島攻略を難しくしている要因だった。空母が数隻いるものの、零戦の数も限られている。敵地には飛行場があるはずなので、制空権を握られると考えるのが普通だ。何も策を講じなければ、大和は単なる的にしかならない。
「今回は南雲との共同作戦だ。向こうにも空母はいる。空での戦闘を互角にした上で、大和で砲撃するのがベストか。君、南雲に無線通信を頼む。『零戦で空の戦闘を五分にして、大和と南雲の高雄で攻める』と」
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「眉間にしわが寄っていますが、どうかされましたか?」
「いや、大丈夫だ」
南雲は部下にそう言ったものの、井上からの提案によって、動揺していた。向こうは南雲の空母を当てにしているが、肝心な空母の一隻をトラック島の海上封鎖に使っている。西本には「追いつくように」と言ったが、難しいことは南雲も承知していた。
「浅瀬での勝負なら、駆逐艦を投入する必要があるな……」
だが、駆逐艦も多いとは言いがたい。つまり、ソロモン諸島での戦いは苦しいものになることは間違いない。西本の空母を待てば、マッカーサーを逃しかねない。
「ソロモン諸島が近づいていますが、どうされますか?」
「このまま前進! 井上の艦隊と連携して、マッカーサーを捕らえる」
最終的に南雲は素早く動くことを優先する決断を下した。
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「いよいよ、マッカーサーとの直接対決か」井上はひとりごちる。
マッカーサーがフィリピン、オーストラリアと逃げたことで、井上は彼をこう評価していた。「部下を見捨てる司令官」だと。そのような司令官に負けるわけにはいかない。
「ソロモン諸島が見えてきた。各自、持ち場につけ! まずは、大和と武蔵の主砲で奴らに先制攻撃を仕掛ける!」
部下たちが各々の持ち場につこうとした時だった。敵の爆撃機が飛んできたのは。
「航空部隊は順次発進! 南雲の部隊と連携をとって、制空権を譲るな!」
井上はこれがベストだと考えていた。
「南雲部隊に無線通信! 内容は『そちらも、零戦を発進させるように』だ!」
「かしこまりました!」部下が命令を受けて、駆け出した時だった。敵の爆撃が大和をかすめて、水柱が上がる。
「くそ、奴らは短期決戦に持ち込む気か」
井上は、南雲部隊がすでに零戦を発進させていることを願った。そうでなければ――待ち受けているのは「敗北」の二文字だ。
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「状況を報告いたします。現在、大和、武蔵が敵機の爆撃を受けています。また、『零戦を順次発進させるように』との無線通信がありました!」
南雲は頭を抱えていた。井上から無線通信が来るより先に、航空部隊を発進させている。それでも、大和が爆撃を受けているのであれば、アメリカ軍に制空権を握られていることを意味している。南雲に出来ることは、駆逐艦をソロモン諸島へ投入し、浅瀬をくぐり抜けて本拠地を叩くしかない。
「駆逐艦部隊は敵の司令部に向けて前進! 零戦は駆逐艦を護衛しろ! この作戦の成否に我が国の未来がかかっていると言っても過言ではない」
南雲はどんどんと遠ざかる駆逐艦を見守る。あれが唯一の希望だ。駆逐艦の上空で戦闘機同士が撃ち合いを繰り広げている。
「頼む、敵の本拠地にたどり着いてくれ」南雲は願望を口にしたが、その願いはあっという間に砕けた。零戦は徐々に劣勢になっていき、駆逐艦に爆撃が襲い掛かる。一隻、二隻と駆逐艦は沈没していく。残るは一隻。
「天は我々を見放したか……」
次の瞬間、雲間から一筋の光があたりを照らす。南雲はそれに視線を向ける。すると、その光に照らされていたのは――西本率いる空母だった。
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