【南雲忠一】海上封鎖を成し遂げろ!

 南雲のもとには「井上成美がマッカーサーをソロモン諸島へ追いやった」という情報が入ってきていた。南雲は頭の中で、いかにしてトラック島を迅速に攻略するかを考えていた。



「なあ、西本。君ならトラック島をどう攻略するかね」南雲はサンゴ礁に囲まれたトラック島を前に西本に問いかける。



 南雲の問いかけに西本は考え込んでいたが、「機雷で動きを封じるのはいかがでしょうか」と意見した。



「機雷の設置? なぜ、そう考える」と南雲。



「オーストラリア北部での海戦により、マッカーサーはソロモン諸島へ逃げたと聞いています。我々が迅速に駆け付けなければ、奴を挟み撃ちにできません。そして、トラック島で戦力を消費するのも、よろしくないと考えます」



「なるほど、確かにここでまともに戦っては、兵も疲弊する。機雷の利用は実に合理的だ」



 南雲はあごに手をやって、思考を巡らせる。素早くソロモン諸島へ到着するには、機雷敷設部隊と南雲が乗艦している高雄を中心とした艦隊と別行動をするのが最善だ。



 では、誰に機雷の敷設を任せるべきか。南雲の頭の中では、すでに答えが出ていた。西本だ。彼はグアムでの上陸作戦を見事に成し遂げた。敵陣での任務にも関わらず、持ち前の冷静な判断で成功させている。西本以外に適任はいないだろう。



「西本、君に空母の指揮をとってもらいたい」南雲はゆっくりと切り出した。



「私にですか?」西本は南雲の指名に驚いたのか、目を丸くしている。



「そうだ、君だ。この艦隊には機雷敷設が可能な航空機を載せた空母がある。それの指揮を君に委ねる。敷設している間に我々はソロモン諸島目指して南下する。君は機雷を設置次第、こちらに追いついて欲しい」



「空母で高雄に追いつく!? いくら速度が近いとはいえ、無茶苦茶です。機雷を設置するのですから、時間がかかります」



「追いつけというのは、それくらいの速度で機雷設置を頼む、ということだ。君なら出来ると思うがね」



 南雲の期待を受けて「成功させて見せます」と、西本は決意表明をする。



「そんなに固くなる必要はない。君なら完遂すると信じいている。健闘を祈る」南雲はそう言うと、西本の肩をポンと叩いた。



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 西本はトラック島の海上封鎖に苦労していた。自ら進言しておきながら、あまりにも機雷の設置範囲が広かったのだ。南雲に指名されたからには、期待を裏切るわけにはいかない。



「準備ができ次第、順次発進! 速やかに機雷を設置せよ!」西本が号令をかけるが、航空機は発進するそぶりを見せない。



「一体、どうなっている! 我々は高雄に追いつくためにも、本作戦を成功させねばならないのだぞ!」西本は整備兵を怒鳴りつける。



「こっちも全力で取り組んでいますよ! いくら命令とはいえ、限界があります。我々のことも考えてください。ロボットじゃないんですから、ローテーションで休憩をとる必要があるんです!」整備兵はスパナを振り回しながら、怒り狂っている。



 西本はそう言われてハッとした。グアムでの上陸作戦を成功させて、今回も南雲から期待されている。西本は気づかないうちに「南雲の期待に応えなくては」と、自身を追い詰めていたのだ。そして、部下にプレッシャーを与えていた。これでは、事はうまく進まない。



「……。悪かった。慎重に、かつ、確実に設置してくれ。時間は気にするな。全責任は俺が取る!」



 しかし、ソロモン諸島の戦闘が彼の肩にのしかかる。果たして、間に合うのか――。高雄の艦影が消えかける中、西本は最後の指示を整備兵に告げた。

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