第12話 コミュ障と知らないお話

「はい、それじゃあ魔法にギフト、それと呪いについての説明をしていきますね。わからないことがあったらお姉さん・・・・に聞いてくださいね」



「……」



 夜恵は自分の指差し首を傾げる。

 そしてバッツの袖を引っ張り口を開いた。



「お兄ちゃん?」



「え? 夜恵ちゃんはお嬢ちゃんでしょ?」



「……」



「痛い痛い痛い! 夜恵ちゃんが叩いてくる」



 色々と言いたいことはあるが、まずエルミー、一体夜恵のことをなんだと思っているのだろうか。

 そしてバッツよ、お前は夜恵が男だと知っているはずだろう。



 こうして急きょ始まった授業だが、夜恵は相変わらず呆けた顔で、エルミーはやる気に溢れており、バッツは苦笑いを浮かべている。

 本当に大丈夫だろうか。



「まずは魔法から始めていきましょう。ヤエさんは魔法についてまず何を知っていますか?」



「えっと、火が出る」



「うん、うん……ヤエちゃん? それだけ?」



 バッツの問いに夜恵は頷く。

 彼はそうやって驚いているが今の夜恵には何も知識がない。

 前に住んでいた世界には魔法なんてなく、どのような力で発動出来ているのかもわからない。

 むしろ、火が出るなんてわかりやすい事象を答えられただけ立派であろう。



「なるほど、知識は皆無。というわけですね。それならちょうどさっきリリカさんの話が出たので、彼女を例えに説明していきましょう」



「リリカかぁ、ちょっと珍しい魔法だよね」



「珍しい……種類があるの?」



「ではそこから――魔法とは人が編み出した苦肉の策・・・・。先人……大昔の人々が魔物に対抗しようと、その魔物を喰らうことで得た力だと言われています」



「もぐもぐ~?」



「はい、魔物には強い毒性があり、食べるなんて以ての外でした。ですが魔法を広めた人々には耐性があったのでしょうね、魔物の体を自身の体に取り込むことによって魔法というものを強大なものにし、そして何千年もかけて人々に浸透させていったのです」



「まあこれは歴史だね。魔法の始まりは魔物、というより魔法を使うための魔力を生成させるための進化。それを徐々に成長させていき、今では使えない人が誰もいない」



 すると夜恵が首を傾げた。



「……毒なんて、あったかな?」



「ん? っと、話がずれましたけれど、これが魔法の始まりです。そして話を戻しますが、魔法には種類――というより、これは才能の話になるのですが、使える魔法には限りがあります」



「そうそう、魔法は誰でも使える。でも、使える魔法には適性があって、使えないものはまったく使えない。リリカはさっきエルミーが言ったけれど、『火の指弾魔法プロミグリッド』炎の弾丸を飛ばす魔法、他にもあったけれど、一番威力が出るそれをリリカは好んで使っているんだよ」



「私も元は冒険者でしたので、それなりに魔法は使えるんですよ。まあ大体生涯に適性のある魔法には10種類ほど出会えると統計がとられているようです」



「僕にも、使える?」



「どうでしょうか、ヤエさんは特殊なので……というかどうやってペタウルフ倒していますか?」



「毒」



「毒」



 夜恵の言葉を繰り返すエルミーが思案顔を浮かべたが、すぐに諦めたのか頷いて話を続けた。



「魔法というのは魔力が使用者に合った形になるものの総称です。リリカさんは炎、あっちにいるおじさんが見えますか?」



 夜恵がエルミーの差した方角に目を向けると、おっさんが酒が入った木製のカップを呷っており、赤ら顔で先ほどの2人にヤジを飛ばしていた。



「あの人は魔力を体に付与することで身体能力を上げる魔法を使います」



「『一息の超強化フェイタルブースト』瞬間的に身体能力を向上させる魔法だね」



「彼は魔力を、に変えることを魔法としています」



「どうやって覚えるの?」



「どう。とは決まっていないのですが、鍛錬の先に魔法を習得したり、誰かの魔法を見たことで魔力の形が変わったり、様々ですね」



「ふ~ん」



 夜恵はそうやって手をにぎにぎしているが、心配しなくても夜恵に魔法は使えない。



「え?」



「どうかしましたか?」



 そもそもな話、この魔法とはこの世界の人間が魔物を取り込むことで魔力を自然発生させるために進化した故に行使できる術であり、それが世代を追うごとに簡略、精密になっていき、今の魔力という素質を形にする。というものが魔法と呼ばれるようになった。

 つまり他世界、魔力を生み出す体ではない夜恵に魔法は使えないのである。



「夜恵ちゃん膨らんでどうしたの?」



「……僕に魔法は使えないらしいです」



「あらそうなんですか?」



「魔力が作れない」



「あ~……」



「……あのさ、ヤエちゃんって何者? 魔力が作れないなんてどういう――」



「それじゃあ魔法についてはこのくらいにしておきましょうか」



「あれ、俺無視されてる?」



 バッツの言葉を右から左に流し、エルミーは説明を続けていく。

 もう少し彼に優しくしてやってもいいのではないだろうか。と、夜恵はバッツの背をポンポンと撫でた。



「次は加護ですね。これはヤエさん持っているのではないですか?」



「知りません」



 夜恵の言葉にエルミーが首を傾げた。

 確かに女神とかかわりがある以上ギフトはあると思うのが自然だが、そんなもの渡された記憶もなければ、そんな能力も備わっていない。



 夜恵の持つゲームの力、それをギフトと呼んでもいいのかもしれないが、聞いている限り、そう言ったものでもない。



「え~っと、何か特別な力は?」



「あいんつ?」



「なんですかそれは?」



 夜恵は説明が面倒そうな顔をした。

 現に何と説明すればいいのか困る話題ではあるだろう。

 しかしギフトとは言えないだろう。



 夜恵が虚空に頷いている。



「……あの、もしかして私たちに聞こえない声でも聞こえていますか?」



「進行さん」



 どうも進行さんです。

 エルミーとバッツが首を傾げるが、夜恵だけは胸を張っており、どうにも自慢げだ。



「……ええ、まあはい、ギフトとは別の何かなんでしょうね。ふむ――そうだヤエさん、良かったら今から一緒に私と依頼を受けませんか?」



「うぃ?」



「ギルド員として、ヤエさんの実力を知っておきたいですし、もし想像以上の実力ならばもっと難しい依頼を紹介できますので、もっとお金が溜まりますよ」



「……はい」



「ちょっと嫌そうですね。まあ今回だけですから。ね?」



「わかりました」



「それじゃあ残りの呪いについては依頼を受けながらと言うことで、すぐに出発しましょう」



「……あの~」



「あ、バッツさんは帰って良いですよ」



「エルミー酷くない! 俺も行くって」



 そんなこんなで、夜恵とエルミー、バッツとで依頼を受ける流れとなったのだが、夜恵の戦い方に彼女たちが困惑するのが確定してしまったことに、少々の憐れみを覚えつつ、彼らの行く末を見守るのだった。



「何のお話し?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コミュ障は異世界で声を聞く 筆々 @koropenn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ