第3話 コミュ障、お金がない

 ギルドから外にでた夜恵、とりあえず宿屋を探そうと街に繰り出すのだが、ふと自分の体を見渡す。



「――?」



 それと同時に、周囲から物珍しそうな視線を受けていることに気が付き、赤らめた顔を逸らし、両手で控えめに口を覆い、顔を隠そうとする。



 ほぼ同じタイミングでギルドから出てきた冒険者のお兄さん、欲情したような顔で夜恵をガン見である。



 そんなお兄さんが夜恵にばかり目をやっていたばかりに、柱に頭を打ち付けたのを横目に、自身の衣装があまりにも周囲と異なっていることに気が付いたのだ。



「あっ」



 夜恵はこちらに来る前、しっかり委託の宅配として働いていた。真っ黒ニャンコから荷物を受け取り、ほとんど変わらないルートを車で毎日毎日走っていた。

 そして帰ってきたと同時に、料理できるのにしないことがあだになったのか、カップ麺と菓子パンだけの生活に、不摂生から体を傾け、そのまま自宅アパートで足を滑らせ、普段から好んで飲んでいた1,5Lの炭酸飲料のキャップの部分に額の中心を打ち付け、そのまま帰らぬ人となった。



 故に夜恵は仕事に着ていった服装のままであり、ジーパンとパーカーというひどく簡単な服装をしている。

 もちろん、こんな魔物が出て魔法があるような世界では不適切な格好で、それが周囲から浮く要因となっていた。



「……服、服屋」



 当然夜恵は周囲の空気と同化するために、この世界に合った服を探そうとするのだが、如何せんあの程度の薬草では宿屋に泊まって服を買うことは難しい。せめてどちらかである。



「――」



 すると夜恵が空を泣きそうな目で見上げながら、両手の握り拳を胸の前に置き、両拳をブンブンブンブン上下に振っている。

 夜恵特有の奇行である。



「……」



……あの変質者から貰った力を使いこなせれば、もっと別の依頼をこなすことが出来そうだと夜恵は思いつく。



「――っ」



 思い立ったが吉日――夜恵は生きるための路銀を集めるために、さっきここに来る前に通った街道へと戻ることを決めたのだった。

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