第2話 コミュ障、冒険者ギルドを活用する

「……」



 グリウィッシュの街に到着した夜恵だが、門で現代では存在しない身元の確認方法をとられて、戦々恐々と門番を見守っていたがなんの引っかかりもなく街に入れてしまい、この街のセキュリティどうなっているんだと訝しみながら、彼は金を稼ぐために冒険者ギルドに走った。



「んぅ?」



 しかし夜恵は冒険者ギルドという聞きなれない言葉に首を傾げる。

 だが彼は首を横に振る。冒険者ギルドというのは何となくわかる、でもそれに入るには身分証とかが必要なのではないかという疑問を持っているのだった。



「うんうん」



 考えていても仕方がない。

 夜恵は足を動かし、とりあえずそのギルドに向かってみることにした。



 それらしき建物がないかを探すのだが、どうにも木造の建物ばかりで見当たらない。

 でもこんな時でも人に聞くのは極力避けたい。というより空気に徹していたい。

 そう、夜恵はコミュ障だった。



「――」



 頬を膨らませる様はまさに男児である。



 そんな彼に天啓が降りる。

 冒険者ギルドとはここから真っ直ぐ進んで、最初に見えるスイングドアの大きな建物、見た目が西部劇よろしくなウエスタン風な酒場だが、しっかりと依頼を受けられるシステムとなっている。



 夜恵はぴょこぴょこと脚を進ませて、そして見えてきたギルドにまっしぐら。



 スイングドアを開け放ち、見た目通りの内装に夜恵は感嘆の声を上げた。



「わぁ~」



 しかし夜恵は邪魔になるかもしれないとすぐにそこから退き、スタスタと受け付けっぽい人に話しかけに行く。



「あ、あの」



「ん? あらどうかしましたか」



「えっとその、依頼を――」



「依頼の申し込みですか? それでしたらこちらの用紙に内容と目的、報酬を――」



「じゃなくて、受けたくて」



「え? あの未成年の方は依頼を受けることは出来ませんよ」



 夜恵は首を横に振り、さっき門でもらった紙を受け付けの彼女に差し出す。



「ん」



「え? 24.ず、随分若いというか、幼いというか」



 夜恵は小さく頬を膨らませて抗議するが、受け付けのお姉さんには察してもらえず、少しだけ不機嫌になった。

 しかし彼女が依頼の案内を始めようとしてくれ、夜恵はすぐさま先ほど刈り取った薬草を手渡す。



「え? あ、えっと、こ、これ」



「あら薬草ですね。しかもこれ、それなりに珍しい方の薬草ですね」



「あの、とりあえずお金が欲しくて。今日泊まる宿もまだで、だからその」



「ああ、この街に来たばかりなのですね。この薬草でしたら宿に泊まれるだけのお金になりますよ。すぐに依頼達成にしますか?」



「はい」



 返事だけは良い男、それが夜恵である。


 受付のお姉さんが奥へ消えていき、紙を手に戻ってくるとそのまま夜恵から薬草を受け取り、依頼料と依頼達成の証明書を夜恵に渡した。



「証明書は、領収書のようなものなので宿のゴミ箱にでも捨てるか、それともこちらでも捨てておけますが、もし冒険者になりたてというのであれば残しておくのも良いかもしれませんよ」



「――?」



「え~っと」



 首をコテンと傾げる夜恵に、お姉さんは顔を赤らめる。夜恵は顔だけは良いのである。



「もしお金を盗まれたり、失くしてしまったらこれが証拠になる場合があるので、大事に取っておく初級冒険者が多いのですよ」



「……わかりました。何から何まで、丁寧にありがとうございます」



「いいえ。もしまたわからないことがあったら尋ねてくださいね」



 夜恵は頷き、金を持ってギルドから出る――。



「あっ、ちょっと待ってください」



「んぃ?」



 ギルドから出る直前、お姉さんが追いかけてきた。

 夜恵は何だろうと近づいてきたお姉さんを潤んだ瞳で見上げた。



「ん~、やっぱり心配になる見た目をしていますね。って違う違う、お名前はヤエさんでお間違いないでしょうか?」



「はい」



「ではヤエさん、こちら一応この街の宿が記載された案内です。冒険者ギルドからと……ああそうだ、こちらがうちで依頼を受けたという証明になります」



 お姉さんはそう言って、先ほど夜恵が門で受け取った紙にポンとハンコを押してくれた。



「これを宿で見せれば割引もされますので、活用してくださいね」



「うぃ。あ、あの、ありがとうございます」



「いいえ。あっそれとヤエさん、性別は男性だそうですけれど、怪しい男の人にはついて行っては駄目ですよ。その見た目だと普通に許容範囲だと思います」



「――? はい」



「……心配だなぁ」



  お姉さんの心配をよそに、夜恵は彼女に小さく手を振り、今度こそギルドから外に出るのであった。

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