1章 コミュ障、やりたくないから聞く専門

第1話 コミュ障、異世界に立つ

「……」



 小春日和の中、燦々と漏れる木漏れ日に中学生にも見える童顔の男、五剣いつるぎ 夜恵やえが走る風に目を覆い、現代では感じることのなかった自然に息を漏らした。



「――っ?」



 夜恵は辺りをキョロキョロと見渡し、まるで自分の存在を確かめるかのように耳に手を当てた。

 その耳に届くのは小鳥のさえずり、風の音、さらに耳を澄まして見れば小川のせせらぎまで届いてくる。



「? ……?」



 子どものような顔をした夜恵が初めての世界に困惑するように……ではなく、その耳に運ばれる機械的な声に困惑しているようだ。



 よろしく。



「よ、よろしく」



 胡散臭い女神みたいな出で立ちの女に突然矢継ぎ早に喋りかけられ、挙句の果てに望んでいない生への彩を押し付けられ、進む道も示してもらえずに夜恵はどちらに進めばいいのかすらわからず途方に暮れていた。



「……ん、どうしよぅ」



 しかし辺りをよく見渡してみると、割と整った道に少し離れたところには分かれ道と看板。

 夜恵はそれに気が付き、看板まで早足で進んでいく。



「え? あ、うん」



 看板まで辿り着いた夜恵はその文字を――。



「――?」



 読めなかった。

 夜恵は思っただろう。あの変質者、まずは言語だろう。と、力を渡すよりも先にこの世界の文明文化、言語が必須ではないだろうか。

 大昔の石像そのままの女神みたいな恰好しやがって、変質者であり痴女、頭の中もお花畑なのではないだろうか。



「――」



 コクコクと頷く夜恵に、天啓が下る。

 あの看板にはこの先グリウィッシュの街――このまま街道を進めば辿り着くだろう。と、頭に浮かんできたのである。



「――ありがとうございます」



 看板に頭を下げる夜恵はそれなりの礼儀は持っているのである。



 行先も決まり、夜恵は意気揚々と歩き出す。

 こんなところで突っ立っていてもどうにもならない。生きるためには金が要る、まずは金を稼がなければならず、あの街に金を稼ぐ手段があれば良いがと夜恵はその脚を進めていく。



「……」



 すると夜恵、足元に妙な感覚を覚える。



「ん?」



 足元にはそこいらの雑草とは異なる植物がある。

 現代でも見たことのない白い花の植物、夜恵はそれを摘まむと街道を少し逸れた場所にも同じような植物があることに気が付いた。



「――」



 夜恵はそうしてその植物を幾つか摘み取り、死んだ時に肩にかかっていた鞄に、そのまま放り込んだ。



「ん」



 こうして夜恵は鞄をパンパンにして街道を進み、グリウィッシュの街へと歩みを進ませるのだった。

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