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さて時は2023年8月、僕は夏休みをそれなりに楽しんでいたのだけど…ぼちぼち桃ちゃんと一線を越えたいと考えている。
これは夏の暑さに頭がやられたからとか何があってもどうにかなる程の大金を得たとかそういうことではない。
遡って年始の成人式が済んだその日の夜。僕にとってのっぴきならないニュースが飛び込んで来たからだ。
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両家で祝賀会をしてお互い部屋へ戻ってしばらくした夜、桃ちゃんの部屋のカーテンが開いて僕の部屋の窓の外が僅かに明るくなった。
机に向かって工作をしていた僕が顔を上げると逆光の中に桃ちゃんのシルエットが浮かぶ。僕は桃ちゃんの着替えを見たくないのでカーテンを閉めるよう口酸っぱく言っているのだが、僕は僕でこうして向こうからのアクションにすぐ対応出来るように小笠原家側の窓はカーテンを開放するようにしている。
ちなみに着替えを見たくないってのは方便で、実際は色々と我慢が出来なくなってしまうからだ。本当なら見たい、是非に最新の桃ちゃんを見てオカズにしたい。数年前の記憶の中の桃ちゃんでもまだ味がするので堪えられるが、もう成人なのだから高校生の下着姿で興奮するのはヤバい気がする…余談だけども。
「…モモちゃん…?何だろ」
明らかに僕を呼んでいるようなので廊下からバルコニーへ出て小笠原家の方へ近付く。
フェンスと桃ちゃんが居る窓とは距離にして100センチ程で乗り出せば内緒話だってこそこそできたりする。
「ねェ源ちゃん、お、お母さんがね、あの、」
「なに、落ち着いて」
「あ、あ、」
「また脚でも怪我したの?」
「違う、あ、あ…赤ちゃん……出来たんだって…」
「………へぇ…やるね」
桃ちゃんのお母さんは確か37歳だ。初産ではないし心得はあるだろうけど思い切ったことをしたものだ。
お母さんは兵庫に単身赴任中で、向こうで恋人を作ってよろしくやっている。
僕らも会いに行ったし帰省してくればパーティーを開いてもてなすし、相手の男性…
お母さんは一度離婚してるから入籍には消極的で、でも一緒に暮らしているそうだからこれがきっかけで再婚するのかもしれない。
「うん、あの、今電話で聞いてびっくりしちゃって、あの、うん、」
「落ち着きなって…おめでとう、お姉ちゃんだね」
「うん……そう、お姉ちゃん……嬉しい…」
桃ちゃんは口元をむにむにと波打たせて、初めての感情に喜びながらも少し困惑した様子だった。
長らくひとりっ子だったのだから無理もない。数年の内に自分もその兄弟とさほど歳の変わらない赤ちゃんを産むかもしれないのだし。
「性別とかは?」
「あ、まだ分かんないって」
「そう、予定日とかは?」
「9月だって」
「…じゃあまだ初期も初期じゃん…よくお知らせしたね」
「嬉しかったんじゃない?ふふ…私も嬉しい♡」
「そうか、秋……向こうで産むのかな?」
「ううん、産前から通って、こっちで産むって」
「ほー…」
「それか転勤願い出してこっちに戻って来るって」
「ほーー…」
「たぶんアパートとか借りるんだろうけど、産んでしばらくはうちに居るだろうって……嬉しい、お母さんと暮らせる♡」
「うん、なるほどー……そう、」
「良いことだからシェアしたかったの。聞いてくれてありがとねェ」
「ううん、嬉しい報告をこちらこそありがとう。…寒いから体冷やさないようにね」
「うん、じゃあね、おやすみィ♡」
「………そうか…良かったな…」
桃ちゃんは中学以降はお母さんと離れて暮らしている。桃ちゃんは関西の学校も視野に入れていたらしいが…今の口ぶりは実家に残るのが決定したような言い方だった。
そしてやはり桃ちゃんは自宅から通える範囲の学校に決めて4月から通い始めることになった。
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