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そして。日光と長時間の移動に負けたのか私は翌朝からなかなかの高熱を出し、源ちゃんに教えると「僕も」と返ってきた。
『熱中症みたいのかな。脳みそが熱を帯びてる感じするの』
『恐いのね。心配だわ』
『これから病院行ってくる。源ちゃんも同じ症状なんだって』
『あらあら、仲のよろしいこと』
着替えつつ母にメッセージを打てば、まるで源ちゃんと体調までシェアしたかのように言われるので気恥ずかしい。
『お母さんの働いてるところ、かっこよかった。私もなにか、人に頼ってもらえる仕事がしたいな。そろそろ出るね、ばいばい』
『そう、まだまだ時間があるんだから、ゆっくり決めなさいな。またね』
母の言葉の最後にはキスマークの絵文字が付いていて、職場でのあの姿とリンクして…私は一層母へ尊敬と憧れの想いを強くした。
「モモちゃん、行こ」
「うん、」
数分後に家の前で待ち合わせた私達は、ごく近所の内科へと徒歩で移動する。
「歩いてばっかだね」
「うん。来週の夏期講習までには元気にならなきゃね」
「暑さに負けるなんて、若いと思ってたけどそこまでじゃなくなってるのかな」
「そんなこと言ったら成人したらどうなっちゃうの」
「…手、繋ぐ?」
「やめとこ、誰が見てるか分かんないよ」
医院の先生も受付もナースさんもご近所の人ばかり、小さい頃からお世話になっているので顔も名前も割れていた。
「周知の事実にした方が楽なんだけどな」
「気分が盛り上がりすぎちゃうと、源ちゃんが我慢できなくなるかもよ」
「……僕だけかな」
「………ううん、私だって…もっと触りたくなっちゃう」
「……」
「……」
しばしの沈黙のあと、
「あ、だめだ、キスしたいな」
源ちゃんはそう言って怠そうに私を見下ろした。
「…診てもらって、早く帰ろうよ」
「帰ったらしてくれるの?」
「違う、……違わないけど……見えない所で、ね」
「なら早く診てもらおう」
その後、私達は共に軽い熱中症と診断され熱冷ましの
先生曰く、しっかり水分と塩分を摂って、大人しく寝ていなさいとのことだった。
「じゃあね、源ちゃん。ちゃんと寝るんだよ」
「うん……モモちゃん、キスを忘れてる」
「あ、」
源ちゃんは新島家の門扉の陰まで私を引き入れて、「ここに」と指で催促をする。
「んもゥ」
「私からさせたいんだ」、彼のそんな意図を私なりに汲んで、少し背伸びをしたら彼の指示を無視して唇へと…リップのキスマークを付けた。
「わ、」
目を閉じそびれた源ちゃんはよろよろと玄関のドアに背中をぶつけ、古いガラス戸がガシャンと音を立てる。
「ちょっと大丈夫?…じゃあね、」
「モモちゃん…どうしよ、寝られないかも」
「なんでよ」
「興奮しちゃった」
「慣れてよォ…」
扉を心配しつつこちらに振り返らない彼は少し猫背で腰が引けていて、さらに
「カーテン、開けておいてくれる?」
と聞くもんだから
「嫌だよ」
と答えて前の道へと出る。
「着替えの時だけ閉めて、それ以外はずっと見てたい」
「こわーい」
人に聞かれないうちに馬鹿な会話を切り上げて、私は隣の自宅へと戻りパジャマへ着替え…その日はカーテンは開けておいてあげた。
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